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【曜日】

★1.日曜日。

『シベールの日曜日』(ブールギニョン)  戦場帰りの青年ピエール(演ずるのはハーディ・クリューガー)は、愛人である看護婦マドレーヌの世話を受けつつ、孤独な心を抱いて暮らしていた。ある日彼は、十二歳の少女シベールと出会う。シベールは両親に見捨てられ、寄宿学校に入っていた。ピエールは彼女の父親代わりになり、二人は毎週日曜日に湖畔の森で遊ぶ。二人は父娘というより、恋人どうしに見えた。マドレーヌは二人のことを職場の医師に相談する。医師はピエールを変質者と見なして警察に通報し、警官がピエールを射殺する。

『日曜はダメよ』(ダッシン)  ギリシアの港町。イリア(演ずるのはメリナ・メルクーリ)は美人で気立ての良い娼婦である。彼女は毎週、月曜から土曜まで客を取るが、日曜日だけは仕事を休み、彼女のファンの男たちを自宅へ呼んでパーティーを開く。古代ギリシアに憧れるアメリカ人ホーマー(ホメロスの英語読み)は、ギリシア文明崩壊後の快楽主義の象徴がイリアだと考え、彼女を教育し、娼婦をやめさせようとする。しかしイリアと酒場の男たちの陽気な毎日を見て、ホーマーは「私もイリアと寝たいと思っていた」と告白し、アメリカへ帰って行く。

『炎のランナー』(ハドソン)  一九二四年のパリ・オリンピック。イギリスの百メートル走者リデル(演ずるのはイアン・チャールソン)は、宣教師だった。彼は百メートル走の予選が日曜日と知って、「日曜は神が定めた安息日だから、私は走らない」と言う。イギリス皇太子をはじめとする要人たちがリデルを呼びつけて、国のために出場するよう強く要請したが、それでも彼は断った〔*リデルは代わりに、競技日が日曜ではない四百メートル走に出場して、優勝した〕。

『ろばの皮』(ペロー)  美しい王女がろばの皮をかぶり、他国の王の領内で、農家の下女として働く。日曜日と祝日には、王女は自室を閉め切り、ろばの皮を脱いで化粧をする。王女はドレスを着て大きな鏡の前に立ち、誰よりも美しい姿にうっとりと見入る。この愉しみが、次の休日まで働く力を王女に与えるのだった。ところが、ある時、王女はドレス姿でいるところを、のぞき見されてしまった→〔のぞき見〕1

*日曜日は安息日で、仕事を休むべき→〔月の模様〕2の月の陰影の由来(フランスの神話)、月の中のハンス(ドイツの伝説)。

*日曜日は、夫であることを休む→〔二人妻(等分に愛する)〕2の『ふたりのロッテ』(ケストナー)。

*毎日が日曜日→〔引きこもり〕1の『明日は日曜日そしてまた明後日も・・・』(藤子不二雄A)。

*「日曜日」というあだ名→〔あだ名〕5の『日曜日』(三島由紀夫)。

★2.月曜日。

『月曜日のユカ』(中平康)  十八歳の美少女ユカ(演ずるのは加賀まりこ)は、船荷会社の社長である「パパ」(加藤武)を喜ばせたい、幸福にしてあげたい、と願っている。日曜日、ユカは、「パパ」が妻や娘と買い物をする楽しそうな姿を見る。日曜日は、「パパ」が家族と過ごす日なのだ。ユカは「月曜日を、私のためにとっておいてほしい」と思う〔*ユカは「パパ」に頼まれ、会社の取引先の外人船長と寝る。その後、ユカとパパは埠頭で踊り、「パパ」は海へ落ちる。溺れ死ぬ「パパ」を、ユカは黙って見ていた〕。

★3.金曜日。

『お目出たき人』(武者小路実篤)  この数年来、「自分」は、近所に住んでいた女学生・鶴を恋している。逢いに行きたいと思うが、今日は金曜日であることに気がついた。金曜日は西洋人が忌む、と聞いている。それで二〜三年前から、金曜日にはなるべく逢いに行かないようにしている。そんなことは迷信だと思って、出かけることもある。しかし、いい気はしない。考えたあげく、今日は逢いに行くのをやめた→〔空想〕4

『13日の金曜日』(カニンガム)  一九五七年、ニュージャージー州のクリスタル湖でジェイソンという男の子が溺れ死んだ。ジェイソンの母親は「監視員たちの怠慢のせいだ」と憤った。母親は翌年、湖畔でキャンプする少年少女二人を刃物で殺した。以来、クリスタル湖のキャンプ場はさびれてしまったが、二十年余を経た一九××年の六月十三日金曜日、男女八人の若者がキャンプを復活した。その夜、ジェイソンの母親は、ナイフ・斧・矢などで次々と若者たちを惨殺する。アリスという娘一人だけが生き残り、アリスは格闘の末、ジェイソンの母親を殺した〔*湖で溺れたジェイソンは生きており、続編で殺人鬼となって登場する〕。

『ロビンソン・クルーソー』(デフォー)  孤島にただ一人漂着した「私(ロビンソン・クルーソー)」は、大きな柱で十字架を作り、「一六五九年九月三十日、我ここに上陸す」とナイフで刻んだ。聖なる安息日と平日の区別がつかなくなると困るので、柱の側面に毎日ナイフで刻み目をつけ、暦とした。島で暮らし始めてから二十五年後、「私」は人食い人種に追われる男を助けた。彼は二十六歳くらいで、皮膚の色は黒というより、濃い黄褐色だった。その日は金曜日だったので、「私」は彼を「フライデー」と名づけて、部下にした。

★4.土曜日。

『スーフィーの物語』17「粘土の鳥はなぜ空を飛んだか」  マリアの息子イエスがまだ幼子だった時、粘土で小さな鳥を作って遊んでいた。その日は土曜日(ユダヤ教の安息日)で、働くことも遊ぶことも禁じられていたので、長老たちがやって来てイエスを咎める。すると彼らの目の前で、粘土の鳥は空に向かって飛び立って行った。これを見た長老の一人は、「粘土の鳥が空を飛べるはずはないのだから、安息日の掟を破ったことにはならない」と言った→〔見間違い〕7

『メリュジーヌ物語』(クードレット)  メリュジーヌはレイモン(レイモンダン)と結婚するに際し、「私が毎週土曜日にどこで何をするか、決して詮索しないことを誓って下さい」と要求する。二人は仲むつまじく暮らし、十人の子が生まれる。ある日レイモンの兄が訪れ、「メリュジーヌは土曜日には他の男に身をまかせている、との噂がある」と言う。レイモンは動揺し、メリュジーヌとの誓いを破って彼女の部屋をのぞき見る→〔のぞき見(妻を)〕2

*土曜日の午後の犯罪→〔エレベーター〕1の『死刑台のエレベーター』(マル)、→〔硬貨〕1の『百円硬貨』(松本清張)。

★5.日曜日から始まり、金曜日に終わる悲劇。

『ロミオとジュリエット』(シェイクスピア)  日曜日の夜、モンタギュー家のロミオは仮面をつけて、キャピュレット家の舞踏会へ行き、ジュリエットと出会う。月曜日の午後、ロミオは、ジュリエットの従兄ティボルトを殺して、ヴェローナの街を追放される。火曜日もしくは水曜日の夜(*どちらにしても前後矛盾が生じる)、ジュリエットは四十二時間の仮死をもたらす薬を飲む。木曜日の夜、ロミオは、ジュリエットが本当に死んでしまったと思い、絶望して毒薬を飲む。その直後にジュリエットは目覚め、短剣で自らの胸を刺す。金曜日の早朝、二人の死を契機に、モンタギュー、キャピュレット両家は和解する。 

★6.一週間。

『セレンディッポの三人の王子』  セレンディッポ(=セイロン)の三人の王子が、バフラーム皇帝の病気を治す方法を提案する。広く気持ちの良い田園に七つの美しい宮殿を建て、世界の七つの地方の領主の娘(処女でなければならない)を一人ずつ住まわせる。皇帝は月曜から毎晩、宮殿を一つずつ巡り、乙女らと甘く楽しい語らいをして一週間を過ごすのである〔*皇帝の病気の原因は、美女ディリランマを失ったためだった。一週間の最後の日、日曜日にディリランマが現れたので、皇帝の病気は治った〕。

 

※毎週木曜日のデート→〔人妻〕4の『逢びき』(リーン)。

 

 

【予言】

★1.予言された運命から逃れようとしても逃れられない。

『イソップ寓話集』(岩波文庫版)162「子供と烏」  生まれてまもない子供が、「烏に殺される」と予言されたので、母親は大きな箱に子供を入れて守る。蓋を開け閉めして食物を与えていたが、ある時、箱の烏鉤(かぎ)が子供の脳天に落ちかかり、子供を殺した。

『オイディプス王』(ソポクレス)  コリントス王の息子として育てられたオイディプスは、アポロンから「父を殺し母と交わるであろう」との神託を得る。オイディプスは予言の実現を恐れ、父母のもとを離れて旅に出る。しかしコリントス王は育ての親に過ぎず、オイディプスの真の父親はテーバイの王ライオスだった。それを知らぬオイディプスは、恐ろしい運命から逃れようとしてテーバイへ向かい、かえって神託どおりの運命を招く。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章  「娘の産んだ子供に殺されるだろう」との神託を得たアクリシオスは、娘ダナエを青銅の部屋に閉じこめ、男が近づかないようにする。しかし、大神ゼウスによってダナエはぺルセウスを産み、後年、ぺルセウスの投げた円盤に当たって、アクリシオスは死んだ。

『ニーベルンゲンの歌』第25章  グンテル王やハゲネらの率いるニーベルンゲンの勇士たち、一千人の騎士と九千人の兵卒が、エッツェルの国へ向かう。ドナウ河で水浴する水の乙女たちが、「王室司祭以外は生きて帰れない」とハゲネに予言する。ハゲネはこの予言を無化すべく、司祭を船から投げ落として殺そうとする。しかし、ろくに泳げぬ司祭が無事に岸に帰り着いたので、ハゲネは死の運命が避けられぬことを悟る。

*紡錘(つむ)に刺されて死ぬ、との予言→〔十五歳〕1の『いばら姫』(グリムKHM50)。

*刃物で死ぬ、との予言→〔落下する物〕1の『捜神記』巻19−9(通巻448話)。

*死、結婚、貧窮などの、逃れられぬ運命→〔運命〕1aの『イソップ寓話集』(岩波文庫版)363「子供と絵のライオン」など、→〔運命〕1bの『魚と指輪』(イギリスの昔話)など、→〔運命〕1cの『江談抄』第6−58など。

★2.予言にそそのかされて行動する。

『マクベス』(シェイクスピア)第1〜2幕  マクベスはグラミスの領主で、スコットランド王ダンカンに仕えていた。ある時、三人の魔女が荒野でマクベスを待ち受け、「いずれは王ともなられるお方!」と呼びかけた。マクベスは魔女たちの予言を実現させるべく、ダンカンを暗殺して、自らがスコットランド王となった〔*マクベスは魔女の予言を頼るが、ダンカンの忠臣マクダフに討たれた〕。

★3.死の予言を人為的に実現させる。

『百喩経』「婆羅門が子を殺した喩」  婆羅門が予知力を世人に示すべく、子供を抱いて「我が子はあと七日で死ぬ」と哭泣する。人々が「寿命は予知できぬもの」と慰めると、婆羅門は「私の予言ははずれたことがない」と断言し、七日目に自ら子を殺して自説を証明する。人々は子供が死んだと聞いて感嘆し、婆羅門を敬う〔*→〔死相〕2の『近世畸人伝』(伴蒿蹊)巻之3「相者龍袋」も、予言の人為的実現に近いところがある〕。 

★4a.死の予言を無視して、命が助かる。

『捜神記』巻18−25(通巻437話)  鼠が現れて、「お前は某月某日に死ぬ」と、王周南に告げる。しかし彼はとりあわない。予告された日に再び鼠は現れ、「お前は昼に死ぬ」と繰り返すが、王周南はやはりとりあわない。真昼になると、鼠は「お前が返事をしないなら、おれはもう何も言わぬ」と言い、ひっくり返って死んだ。

★4b.死の予言をそのまま受け入れて、命が助かるばあいもある。

『生まれ子の運』(日本の昔話)  「十八歳の時に桂川の主(ぬし)にとられる」と予言された息子が、その年、大水の桂川へ仕事に出かける。親はあきらめて、家で葬式の準備をする。息子は途中で出会った娘に餅を御馳走するが、その娘が、実は川の主だった。おかげで、餅の返礼に、息子は寿命を六十一歳までのばしてもらえた(兵庫県美方郡)。

★5.予言の真の意味がわからず、誤った受け取りかたをする。したがって、意想外の形で予言が実現する。

『史記』「秦始皇本紀」第6  燕人盧生が鬼神の告げとして奉った録図書(=未来記)に「秦を滅ぼすものは胡なり」とあったので、始皇帝は胡国を討伐した。しかし「胡」は秦の二世皇帝胡亥のことであった。

『史記』「陣渉世家」第18  陣勝と呉広が秦に対する反乱を起こそうとして、まず占ってもらう。卜者が「鬼神に託することになろう(汝らは死んで鬼となろう)」というのを、陣勝・呉広は誤解して「衆をおどせとの教えだ」とうけとり、喜ぶ。

『白鯨』(メルヴィル)117章・135章  老船長エイハブは、ピークォド号で白鯨モービーディックを追い続ける。それは命をかけた追跡だった。乗組員の一人である拝火教徒が、「ロープだけがお前さんを殺せるのだ」と予言する。エイハブは「絞首台のことか」と思って笑う。しかし、エイハブが白鯨との死闘の最後に銛を撃ちこんだ時、銛についているロープが輪となって首にまきつき、エイハブを殺した。

『歴史』(ヘロドトス)巻9−33  テイサメノスは、「大きな勝負に五回勝つ」との神託を得た。彼はこれを「体育の勝負に勝つ」と誤解して、五種競技の練習をするが、優勝できなかった。後に「戦争に勝つ」との神託であることがわかり、テイサメノスはスパルタに多大の貢献をした。

*女から生まれぬ者はいない、森は動かない→〔あり得ぬこと〕2の『マクベス』(シェイクスピア)第4〜5幕。

★6.無意識のうちに未来を予知する。

『炎天』(ハーヴィー)  画家と石屋が、それぞれの仕事を通して、無意識のうちに、互いに相手の近未来の運命を描き出した。八月の炎暑のある日、画家は、裁判で被告となった石屋の絵を描き、石屋は、墓石に画家の名前を刻んだ(*→〔絵〕2)。その夜、暑さで気が変になった石屋は、発作的に鑿(のみ)で画家を殺した。 

★7.何気なく発した言葉が、将来の自分の運命の予言になる。

『過去』(志賀直哉)  昔、「私」は自家の女中・千代を恋し、結婚しようと思った(*→〔身分〕2の『大津順吉』)。千代は田舎育ちで教養もなかったので、「私」は千代を教育する必要があった。ある時、「『秋の日は釣瓶落とし』という言葉がある」と教えると、千代は「『男心と秋の空』ってね」と言った。「私」はがっかりした。その後、「私」は千代と別れた。「私」をがっかりさせた言葉が本当になったのだ。

『ボルヘス怪奇譚集』「セキリアの物語」  人妻セキリアが、姪の結婚についての予言を求め、寺院へ行く。セキリアは椅子にすわり、姪は立って、予言を待つ。疲れた姪が「すわりたい」と言ったので、セキリアは「私と替わるといいわ」と言う。この言葉が予言となった。まもなくセキリアは死に、姪がセキリアの夫と結婚したのである(キケロ『予言について』)。

★8.宇宙のすべての原子の、現時点での運動(その方向と速度)を知れば、未来の任意の時点における全原子の位置は、正確に計算(=予知)できる(過去についても同様である)。

『確率の哲学的試論』(ラプラス)「確率について」  宇宙の現在の状態は、それに先立つ状態の結果であり、それ以後の状態の原因である。ある知性(いわゆる「ラプラスのデモン」)が、宇宙の中の最も大きな物体の運動から、最も軽い原子の運動まで、すべての存在物の状況を知っているならば、この知性にとって、不確かなものは何一つない。その目には、未来も過去と同様に現存することであろう。

*未来はすべて決定済み、ということにもなる→〔未来記〕8の『スローターハウス5』(ヴォネガット)。 

 

※予言の書、未来記→〔未来記〕に記事。

※予言を誰も信じない→〔契約〕4の『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第12章(カサンドラ)。

※人相を見て将来を予言する→〔観相〕に記事。

※予言の書だと思ったら、ただの日記だった→〔暗号〕6の『ドラえもん』「大予言・地球の滅びる日」。

 

 

【横取り】

★1a.AとBが貴重な品を巡って争い、通りかかったCがその品を横取りする。

『イソップ寓話集』(岩波文庫版)147「ライオンと熊」  ライオンと熊が、鹿の仔をめぐって争い、互いに傷つき横たわる。そこへ狐が通りかかり、仔鹿を取って立ち去る。

『茶壺』(狂言)  酔って寝た男の茶壺を、すっぱが奪おうとし、目をさました男と「これは私の物」「いや、みどもの物」と争いになる。通りかかった目代が「論ずるものは中から取れ」と言い、茶壺を横取りして逃げる。

*二匹の鬼から、宝物を奪って逃げる→〔三つの宝〕6の『百喩経』「毘舎闍鬼(びしゃじゃき)の喩」。

★1b.A、B、Cが貴重な品を巡って争い、通りかかったDがその品を横取りする。

『千一夜物語』「バイバルス王と警察隊長たちの物語」中の挿話・マルドリュス版第949夜  空飛ぶじゅうたんをめぐって、三人の男が争っていた。それを見た少年が、審判官をかって出る。三人を遠ざけておいて、少年はじゅうたんに乗って逃げ去った。

★1c.AとBが金を巡って争い、通りかかったCがその金を預かる。

『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)(河竹黙阿弥)「大川端庚申塚」  春の節分の夜。大川端で、お嬢吉三とお坊吉三が百両の金を奪いあい、刀を抜いて切り結ぶ。そこへ和尚吉三が仲裁に入る。盗みをしても非道はしないことで名高い和尚吉三に敬意を表し、お嬢吉三とお坊吉三は百両を和尚吉三に預ける。三人はその場で義兄弟の契りを結ぶ。

★1d.AとBが争い、通りかかったCがAとBを獲物として得る。

漁父の利の故事(『戦国策』第30「燕(2)」469)  ドブガイ(あるいはカラスガイ、ハマグリ)が肉を出して、日にさらしていた。シギ(あるいはカワセミ)がその肉をついばんだので、ドブガイは貝を合わせてシギのくちばしをはさんだ。両者が争っているところへ漁父が来て、両方とも捕えた。

*AとBが争って死に、通りかかったCも死ぬ→〔相打ち〕3の『パンチャタントラ』第2巻第3話。

★1e.AとBが争い、通りかかったCが争いをやめさせて、A・B双方の命を救う。「漁父の利」とは異なる展開。

『日本書紀』巻19欽明天皇即位前紀  二頭の狼が山で戦い、血だらけになっていた。秦大津父(はたのおほつち)という人が通りかかり、「あなた方は貴い神で、荒々しいわざを好みます。猟師に遭ったら捕らえられてしまうでしょう」と言い、二頭の噛み合いをやめさせた。そして血で汚れた毛を拭い洗って放してやり、二頭の命を助けた。この報いであろうか、後に彼は欽明天皇に召され、重んぜられた。

『椿説弓張月』前篇巻之1第2回  鎮西八郎為朝が道に迷って山奥へ踏み込むと、狼の子二頭が鹿の肉を得ようと、血まみれで噛み合い争っていた。為朝は、「汝らは勇(たけ)き神である。食は別の所でも得られるが、命は失ったら取り返しがつかない」と教え、弓を挿し入れて二頭を引き分ける。仲直りした二頭は、為朝の先にたって歩み、麓まで導く。為朝は二頭を「山雄」「野風」と名づけ、飼い犬のごとくにした→〔誤解による殺害〕1

★2.手柄を横取りする。

『唄をうたう骨』(グリム)KHM28  「猪を退治した者に王女を与える」との布告に応じて、高慢な兄と無邪気な弟の二人兄弟が出かける。小人が、弟の善良な心を認めて槍を与え、弟はその槍で猪の心臓を突き刺す。しかし兄が悪心を起こし、弟を殺して手柄を横取りし、王女を得る。

『ペンタメローネ』(バジーレ)「序話」  王女ゾーザが、壺いっぱいに涙をためてタッデオ王子を蘇生させようとするが(*→〔涙〕2)、あと少しのところで眠り込んでしまう。それを見ていた奴隷女が壺を横取りして、自分の涙を加える。たちまちタッデオは棺から起き上がり、奴隷女を花嫁にする〔*後にゾーザは、奴隷女の横取りをタッデオに訴える。タッデオは奴隷女を生き埋めの刑に処し、ゾーザを妃とする〕。

『魔笛』(モーツァルト)  王子タミーノが大蛇に追われ、気を失って倒れる。夜の女王に仕える三人の侍女が、大蛇を退治する。王子が意識を回復したところへ、鳥刺しパパゲーノがやって来るので、王子は、パパゲーノが大蛇を退治したと思って、礼を言う。パパゲーノも自分の手柄にして自慢する。侍女たちは戻って来て、パパゲーノの嘘をとがめ、罰として彼の口に錠前をはめる。

『ルスランとリュドミラ』(プーシキン)第5〜6歌  ルスランは魔法使いチェルノモールを倒し、リュドミラを彼女の父ウラジーミル大公が待つ御殿へ連れ帰る(*→〔誘拐〕5)途中、丘のふもとで眠る。リュドミラを得たいと思うファルラーフが、ルスランを刀で三度刺し、御殿へ行って、「私が森の精と戦い、リュドミラを取り戻しました」と嘘の報告をする。洞窟の老人が、死の水と生の水を注いで、ルスランを生き返らせる。ルスランは御殿へ急ぎ、ファルラーフの嘘をあばく。 

*獣や龍を倒した手柄を横取りしようとする→〔舌〕2の『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第13章(ペレウス)など。

*敵の首を討った手柄を横取りしようとする→〔耳を切る〕4の『平家物語』(延慶本)巻9−21「越中前司盛俊被討事」。

 

※夢の横取り→〔夢の売買〕2の『宇治拾遺物語』巻13−5(ひきのまき人)など。

 

 

【横恋慕】

★1.王などの権力者が、部下の妻に横恋慕し、部下を迫害する。

『明石物語』(御伽草子)  播磨に住む明石三郎の北の方に、関白の息子高松中将が横恋慕する。関白は明石を上京させ、捕えて奥州外の浜に流す。明石の北の方は国元を脱出し、夫を尋ねて奥州へ旅立つ。

『仮名手本忠臣蔵』  足利幕府の執事高師直が、塩冶判官高貞の妻・顔世御前に横恋慕するが、顔世は師直の求愛を退ける。これがきっかけで、師直は判官に悪口雑言を浴びせ、怒った判官が殿中で刀を抜いたため、判官は切腹、塩冶家は断絶となる。主君の無念の思いをはらすべく、大星由良之助たち四十七人が、師直の屋敷へ討ち入って、彼の首を取る〔*『太平記』巻21「塩冶判官讒死の事」が原話〕。

*言論の人(高師直)を刀で斬る『仮名手本忠臣蔵』は、言論の人(赤シャツ)を腕力でやっつける『坊っちゃん』と同型の物語といってよいであろう→〔横恋慕〕4

『神道集』巻6−34「児持山大明神の事」  伊勢国司基成が、加若次郎の北の方に横恋慕する。基成は、加若次郎が義父阿野権守とともに謀叛を企てている、と父関白に讒言する。加若次郎は下野国の室の八島に流され、北の方は夫を尋ねて東国への旅に出る。

『雑談集』(無住)巻5−5「咒願ノ事」  山中に修行する梵志の妻が美人なので、国王が彼女を召した。梵志は憤り、天より大石を落として国王並びに人民を殺した。

『日本書紀』巻14雄略天皇7年是歳  吉備上道臣田狭(きびのかみつみちのおみたさ)は、自分の妻稚媛(わかひめ)の美貌を誇り、友人たちに自慢した。雄略天皇は遠くからこれを聞いて、「稚媛を得たい」と思う。天皇は、田狭を任那の国司に任命して遠方へ追いやり、その後に稚媛を召して女御とした。別本では、田狭の妻の名は毛媛(けひめ)と言い、天皇は田狭を殺して毛媛を召した、と記す。

『春雨物語』「宮木が塚」  河守十太兵衛が、恋人の遊女宮木を連れて、生田の森の桜を見に出かける。宿駅の長・藤太夫が、美しい宮木を見て横恋慕し、十太兵衛に無理難題を命じて罪に落とす。十太兵衛が病気になると、藤太夫は医師を買収して毒を盛らせ、ついに十太兵衛を殺してしまう→〔入水〕5

*人妻に横恋慕し、その夫を死なせる→〔水浴〕2の『サムエル記』下・第11章(ダビデとバト・シェバ)。

*人妻に横恋慕し、魔法を用いてその夫に化ける→〔にせ花婿〕2の『アーサーの死』(マロリー)第1巻第2章。

★2.王などの権力者が、部下の妻を奪おうとして難題を出す。

『今昔物語集』巻4−20  天竺の国王が人妻を奪おうとして、邪魔な夫に「四十里先の池へ行き、四種の蓮華を取って七日以内に持って来い」との難題を出す。夫は、妻の教えてくれた三帰法文の力で鬼神や毒蛇の難を逃れ、無事に戻る。国王は反省し、妻を夫に返す。

『今昔物語集』巻16−18  近江の国司が、伊香(いかご)の郡司の妻に横恋慕する。国司は、和歌の上句(「近江なる伊香の海のいかなれば」)を書いて封印し、「これに下句をつけよ。できなければ汝の妻を我に与えよ」と郡司に要求する。郡司は嘆くが、石山観音の化身の女が、ぴったり合う下句(「見る目もなきに人の恋しき」)を教えてくれる。

『太平広記』巻83所引『原化記』  呉堪は、田螺の化身である美女を妻とする。県知事が、その妻を自分のものにしようと考え、「蝦蟆の毛・鬼の腕・蝸斗を持って来なければ罰する」との難題を、呉堪に課す。妻がそれらを用意するが、蝸斗は火を食い火を排泄する獣だったので、知事は焼け死ぬ。

『梵天国』(御伽草子)  玉若中将は梵天国王の姫君を妻とする。帝が姫君に横恋慕し、「迦陵頻伽と孔雀を内裏で舞わせよ」「鬼の娘の十郎姫を連れて来い」「天の鳴神を内裏へ呼び下せ」などの難題を出して、玉若を苦しめる。しかし妻の助けで、玉若は難題を解決する。

★3.横恋慕された女の夫が迫害されず、かえって昇進する物語もある。

『なよ竹物語』(別称『鳴門中将物語』)  後嵯峨帝が、蹴鞠の会を見に来た美女に目をとめ、後宮に入れようとする。しかし彼女は、某少将の妻であった。困惑する彼女に、夫少将は「帝のお召しならば、やむを得ない」と言い、彼女は時々、帝の召しに応じることになった。帝はまもなく、少将を中将に昇進させた→〔あだ名〕2

★4.夏目漱石は、権力者の横恋慕をモチーフとした作品を二つ、明治三十九年(1906)に発表している。

『趣味の遺伝』(夏目漱石)  江戸時代の終わり頃。江戸詰めの紀州藩士・河上才三は、隣家の小野田帯刀の娘と相思相愛で、結婚の日取りも決まっていた。ところが、小野田の娘は藩中一の美女だったため、国家老の息子が彼女に横恋慕する。殿様の御意(ぎょい)によって、小野田家と河上家の縁組は破談となり、小野田の娘は国家老の息子のもとへ嫁ぐことになった→〔転生する男女〕5

『坊っちゃん』(夏目漱石)  日露戦争当時の四国の中学校。教頭赤シャツは、英語教師うらなりの許婚マドンナに横恋慕し、邪魔なうらなりを九州へ左遷して、マドンナに求婚する。数学教師の「おれ(坊っちゃん)」と山嵐は義憤にかられるが、弁舌では赤シャツにかなわない。そこで「おれ」たちは、赤シャツと子分野だいこが芸者と一緒に宿屋へ泊まった翌朝、帰り道で待ち伏せし、鉄拳制裁を加える。

*言論の人(赤シャツ)を腕力でやっつける『坊っちゃん』は、言論の人(高師直)を刀で斬る『仮名手本忠臣蔵』と、同型の物語といってよいであろう→〔横恋慕〕1

★5.横恋慕とは逆に、若い二人の幸福のために身を引く男。

『出来ごころ』(小津安二郎)  中年の鰥夫(やもめ)喜八(演ずるのは坂本武)は工場労働者で、小学生の息子が一人いる。喜八は、身寄りのない娘春江の就職を世話したのが縁で、彼女に傍惚(おかぼれ)する。喜八の弟分・次郎青年が「年を考えなよ」とからかうと、喜八は「お半長右衛門(*→〔心中〕2の『桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)』)を知らねえな」と言い返す。しかし春江は次郎青年を慕っており、それを知った喜八は自らの恋を諦めて、若い二人が一緒になれるようにはからう。 

★6.横恋慕に起因する殺人と自殺で、男女三人が皆死ぬ。

『トスカ』(プッチーニ)  画家カヴァラドッシは、政治犯をかくまったため逮捕され、警視総監スカルピアが彼に死刑を宣告する。カヴァラドッシの恋人である歌姫トスカが助命を請い、スカルピアは引き換えに彼女の肉体を要求する。トスカは承知し、スカルピアは部下に、形式だけの銃殺刑を行なうよう命ずる。しかしスカルピアがトスカを抱こうとすると、トスカはナイフで彼を刺し殺してしまう。処刑の時刻が来て、空砲で撃つはずのところ、実弾が発射されて、カヴァラドッシは死ぬ。トスカは絶望して、露台から投身自殺する。

 

 

【夜泣き】

★1.特別な素質、運命を持つ人物が、幼い頃に夜泣きをする。

『かるかや』(説経)「高野の巻」  あこう御前の産んだ金魚丸(後の空海)は、胎内にある時からすでに読経をしていた。人々はこれを夜泣きと思い、「夜泣きする子は七浦七里枯るるゆえ、捨てよ」と言った。

『平家物語』巻6「祇園女御」  白河院は寵愛の祇園女御を平忠盛に下賜し、院の胤である男児を、忠盛は自分の子として育てた。幼い頃夜泣きをしたので、白河院は「夜泣きすとただもり(忠盛)たてよ末の世にきよくさかふる(清盛)こともこそあれ」との御詠を忠盛に与えた。それによって、男児は清盛と名づけられた。

*青年に達しても泣きわめく子→〔成長せず〕1の『出雲国風土記』仁多の郡三沢の郷(アヂスキタカヒコノミコト)など。

★2.幼い子が、霊を感知して夜泣きする。

『源氏物語』「横笛」  深夜、夕霧の夢に、亡友柏木の霊が生前と同じ袿姿であらわれ、歌を詠み、語りかける(*→〔笛〕2)。その時、幼い若君が夢におびえて泣き出し、夕霧は目覚める。若君はひどく泣き、乳を吐く。北の方雲居の雁は、「あなたが月を見るために格子を上げたので、もののけが入って来たのですよ」と、夕霧のせいにする。

*小さな魔物を見て夜泣きする赤ン坊→〔うちまき〕1aの『まめつま』(小松左京)。

『半七捕物帳』「お文の魂」  三歳の娘お春が、毎夜「ふみが来た」と寝言を言って泣き叫ぶ。あたかも幽霊を感知したかのごとくであったが、実は昼間に、草双紙に描かれたお文という幽霊の絵を見ておびえ、それが夢の中に出て来るのだった。母お道はこれを利用して、「自分も幽霊を見た」と作り話をする→〔離縁・離婚〕7

*夜泣きする娘に、蟹をおもちゃとして与える→〔蟹〕3の蟹沼の伝説。

★3.夜泣きする石。

夜泣き石の伝説  ある夜、小夜の中山を通る妊婦が、石に腰かけて休んでいるところを、賊に殺された。その時、妊婦は男児を産み落とした。以来その石は、夜ごとに赤ん坊の泣き声を発した。弘法大師が供養をして泣き声はやみ、男児も弘法大師によって育てられた(静岡県掛川市日坂。*妊婦の霊が石にこもり、子を思って泣くなど、いろいろな伝えがある)。

★4.夜に鳴く鶏。

『鶏と踊子』(川端康成)  鶏が夜鳴くのは不吉だ。夜鳴きする鶏は、浅草の観音さまの所へ棄てれば、禍(わざわい)を免れるという。夜、踊子が鶏を風呂敷に包んで棄てに行くと、変な男がつきまとう。男は「踊子たちに恋文をよこす男どもを恐喝して、一緒に金もうけしないか?」と誘い、踊子をつかまえる。踊子は風呂敷包みを男の顔に押しつけ、男がひるむ隙に逃げ帰る。鶏のおかげで禍を免れたのだ。 

★5.子供の夜泣きをとどめる松。

『東海道名所記』巻3「金谷より西坂(にっさか)へ一里廿四町」  小夜の中山の西に夜啼(よなき)の松がある。この松に火をともして見せれば、子供の夜泣きが止まるというので、往来の旅人たちが松を削りとり切りとった。ついに松は枯れて、今は根ばかりになった。 

 

 

【四人兄弟】

★1.四人兄弟の長子が王位を継承する。

『ラーマーヤナ』  コーサラ国アヨーディヤーの都を治めるダシャラタ王が、子を請う馬祠祭を行ない、四人の王子を得た。まずカウサリヤー妃から長子ラーマ、次いでカイケーイー妃からバラタ、スミトラー妃から双子のラクシュマナとシャトルグナが誕生した。ダシャラタ王の死後、ラーマとラクシュマナはランカー島に遠征して魔王ラーヴァナを滅ぼし、その間、バラタとシャトルグナが留守を守った。ラーマは帰還後王位につき、彼の治世は一万年に及んだ。

★2.四人兄弟の末子が天皇になる。

『古事記』上巻〜中巻  ウガヤフキアヘズとタマヨリビメの間に、イツセ、イナヒ、ミケヌ、カムヤマトイハレビコの四兄弟が誕生した。次子イナヒは海原に入り、三子ミケヌは常世国に渡った。長子イツセと末子カムヤマトイハレビコが東征の旅に出るが、長子イツセは戦死し、末子カムヤマトイハレビコが日本初代の天皇(神武)となった。

『日本書紀』巻3神武天皇即位前紀〜元年正月  ウカヤフキアヘズとタマヨリヒメの間に、イツセ、イナヒ、ミケイリノ、カムヤマトイハレビコの四兄弟が誕生した。末子カムヤマトイハレビコが十五歳で太子(ひつぎのみこ)となった。四兄弟は東征の旅に出るが、長子イツセは戦死し、次子イナヒは海に入り、三子ミケイリノは常世郷に往き、末子カムヤマトイハレビコが神武天皇として、橿原の宮で即位した。

*ウガヤフキアヘズの治世は八十三万六千四百十二年、という説がある→〔伯母(叔母)〕1の『神道集』巻2−6「熊野権現の事」。

★3.四人兄弟の末子が総領になる。

『鉢かづき』(御伽草子)  山蔭の三位中将の四人の息子のうち、三人は妻帯していたが、四男の宰相だけが独身だった。宰相は、屋敷の湯殿の火を炊く鉢かづき姫を見そめ彼女と結婚して、四男ながら一族の総領となった。

★4.四人兄弟が協力して大蛇を退治する。 

『名人四人兄弟』(グリム)KHM129  四人兄弟が修業の旅に出、長男は泥棒、次男は天文覗き、三男は狩人、四男は仕立屋になって、四年後に戻る。王女が大蛇にさらわれたので、次男が遠眼鏡で王女の居所を見つけ、四人は船で救出に行く。長男が大蛇から王女を盗み取り、三男が大蛇を射殺し、四男が壊れた船を縫い合わせて、無事帰還する。四人は褒美に王国の半分をもらい、仲良く暮らす。

★5.四人兄弟と父親との関係。

『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)  フョードル・カラマーゾフは、最初の妻との間に長男ドミートリイ(二十八歳)、二番目の妻との間に次男イワン(二十四歳)と三男アリョーシャ(二十歳)、乞食女との間に私生児スメルジャコフ(二十四歳)をもうける。スメルジャコフは、父フョードル・カラマーゾフを殴殺した後に縊死する。イワンは、自分が無意識のうちにスメルジャコフをそそのかして殺人を犯させたことを知り、発狂する。ドミートリイは父殺しの犯人と見なされて流刑になる。修道僧であるアリョーシャは、父からも兄たちからも信頼され愛されているが、一家の悲劇をくいとめることはできなかった。

 

 

【四人姉妹】

★1.四人姉妹それぞれの生き方。

『細雪』(谷崎潤一郎)  船場の旧家蒔岡家の四人姉妹のうち、長女鶴子と次女幸子は結婚し子供もいる。三女雪子は何度も見合いを繰り返した後、三十五歳になってようやく結婚相手が決まる。四女妙子は、商家の道楽息子と駆け落ちし、写真師の恋人と死別し、バーテンと同棲して死産する。

『若草物語』(オルコット)  父親が、十代の娘四人を残して、南北戦争に従軍牧師として出征する。父親が帰還するまでの間に、長女メグは結婚相手と出会い、次女ジョーの小説が新聞に掲載される。三女ベスは猩紅熱にかかり、四女エイミーは氷の張った川に落ちるが、ともに無事であった→〔クリスマス〕8

 

 

【呼びかけ】

★1.一声だけの呼びかけ。

『えぞおばけ列伝』9「魔の呼び声」  幽霊でも魔でも、人を呼ぶ時は一声しか呼ばない。山でも里でも沖でも、一声しか呼ばれなかったら、決して返事をするものではない。三度目に呼ばれて、いよいよ人間の声だとわかってから、はじめて返事をするものだという教訓が、どこのアイヌにもある。

狐の風(水木しげる『図説日本妖怪大鑑』)  狐は人間に化けても、一声しかしゃべることができない。往来などで、誰かから「もし」と一声だけ呼びかけられたら、それは狐だから返事をしないのがよい。逆に、人に声をかける時には、「もしもし」と二声以上言わないと、「狐ではないか?」と疑われてしまう。

★2.妖怪や幽霊などの呼びかけに、返事をしてはいけない。

『太平広記』巻352所引『北夢瑣言』  江河の辺にはチョウ鬼(溺死者の霊)が多く、往々にして人の名を呼ぶ。これに返答すれば必ず溺れる。死者の霊が誘うのである。

船幽霊の伝説  船幽霊は海で死んだ者の魂で、仲間を海に引きこもうとして現れる。「人語につく」といわれるので、船幽霊がでたら静かにしているのがよく、呼びかけられても返事をしてはならない。

*魔や霊などの問いかけに、返事をしてはいけない→〔返答〕1の『杜子春』(芥川龍之介)など。

*名前を呼ばれて返事をすると、瓢箪に吸い込まれる→〔瓢箪〕5の『西遊記』百回本第34〜35回(金角・銀角)。

★3.呼びかけに答えて良い相手と、答えてはいけない相手がある。

火と死の起源譚(ブラジル・アピナイエ族の神話)  少年が猛獣ジャガーの養子になり、ジャガーの家に住む。少年が自分の村へ帰る時、ジャガーは「途中で、岩とアロエイラの樹の呼び声が聞こえたら、返事をせよ。しかし、腐った木の呼びかけには、答えてはならない」と教える。少年はジャガーの注意を忘れ、岩とアロエイラだけでなく、腐った木にも答えてしまう。岩とアロエイラにだけ返事をしていたら、人間は岩やアロエイラ同様に長生きできたはずだった。腐った木にも返事をしたため、人間の命は短くなった。 

★4.呼びかけるか、呼びかけられるかで、生死が分かれる。

『妖怪談義』(柳田国男)「妖怪名彙(ニュウドウボウズ)」  三河(愛知県)の作手村でかつて「入道坊主」を見た、という話がある。はじめは三尺足らずの小坊主で、近づくにつれて七〜八尺から一丈にもなる。まずこちらから「見ていたぞ」と声をかければ良いが、向こうから声をかけられると死ぬ、といわれる。

★5.化け物の呼びかけに返事をしてはならない、という俗信を利用した詐術。

『宇治拾遺物語』巻9−8  醜貌の若者が「天下の美男子」と偽り、長者の家の婿になる。婿の仲間が鬼に扮して、天井の上から「天の下の顔よし」と呼び、三度まで呼ばれて婿は返答する。長者から「なぜ返事をしたのか?」と問われ、婿は「思わず返事をしてしまった」と答える〔*これは、化け物に返事をしてはならない、という俗信があったからであろう〕。鬼は婿に「お前の顔を吸い取ってやる」と言う→〔顔〕7

★6.阿弥陀仏に呼びかける。

『今昔物語集』巻19−14  にわかに発心した讃岐の源太夫が、西方に海をのぞむ峰へ登り、木の股にまたがり金(かね)を叩いて、阿弥陀仏を呼ぶ。それを見た寺の住持が、「(阿弥陀仏は)いかに答へ給ふぞ」と問うので、源太夫は「さは、呼び奉らむ。聞け」と言って、「阿弥陀仏よや、いどこ(=いづこ)におはします」と叫ぶ。すると海の中に微妙(みめう)の御声があって、「ここにあり」と(阿弥陀仏が)お答えになった→〔発心〕3

*讃岐に住む義太郎は、屋根にすわって海上を凝視し、天狗の踊りを見る→〔屋根〕1の『屋上の狂人』(菊池寛)。

★7.帰宅時、家人に声をかける。

龍泉寺の白蛇の伝説  洞川(どろがわ)に住む男が、山仕事の帰りに会った女を家へ連れて来て妻とし、男児が生まれる。妻は夫に、「山から帰った時は、必ず表から『帰ったぞ』と声をかけて下さい」と頼む。夫は言われたとおりにしていたが、ある日、黙って家へ入ると、妻は部屋いっぱいにとぐろを巻いた白蛇になっていた。正体を知られた妻は、男児を夫に託して、近くの池へ姿を消した(奈良県吉野郡天川村)。

 

 

【読み間違い】

★1.ひらがなの読み間違い。

『無名抄』(鴨長明)  法性寺殿歌合において、源俊頼と藤原基俊の二人が判者をつとめた。俊頼が「口惜しや雲井隠れに棲むたつも思ふ人には見えけるものを」と詠じた時、基俊は「たつ(龍)」を「たづ(鶴)」と誤解し、「鶴は沢に棲むもの。雲井には住まぬ」と難じて、負にした。後日、俊頼は、「この歌は、葉公の故事(好んで龍を描く葉公のために龍が姿を現した)を詠んだものである」と判詞に記した。

『読みちがい』(落語)  信心者の善兵衛が、毎日観音様へ参詣する。ある朝、一枚の紙が飛んで来たので、見ると「おんかしあるへえさとうせんへい」と書いてある。これは菓子屋のチラシで、「御菓子。有平(アルヘイ糖)。砂糖煎餅」の意味だったが、善兵衛は「おうかじあるべえ。さとれ、ぜんべい(大火事あるべえ。悟れ、善兵衛)」と読み間違え、火事に備える〔*実際その夜、大火事が起こったので、善兵衛の読み間違いも、観音様のおはからいだったのであろう〕。  

★2.漢字の読み間違い。

『平林』(落語)  平林という家へ使いに行く男が、往来の人々に「平林」と書いた紙を見せ、読み方を尋ねる。ある人は「『たいらばやし』と読むのだ」、と言い、またある人は「『ひらりん』と読むのだ」と言う。「一八十の木木(いちはちじゅうのもくもく)」とか、「一つと八つで十木木(ひとつとやっつでとっきっき)」などと教える人もいる。男はどれが正しい読み方かわからず、いろいろな読みを連呼して平林家を捜す。

*「一尼公」という宛て名が読めない→〔文字〕2の『一尼公(つれなしのあまぎみ)』(御伽草子)。

『封神演義』第15回  宋異人は姜子牙と義兄弟だった。宋異人は若い頃、街へ野菜を売りに出て、「此巷無路(この露地は行き止まり)」の立札を、「北港魚落(北港で魚の大安売り)」と読み間違えた。彼は大急ぎで北港に駆けつけて、無駄足を踏んだ。宋異人は「文字をきちんと覚えよう」と心に誓ったが、姜子牙は「広告」の効用を悟り、宋異人に「立札広告」を勧めた。宋異人は「立札広告」を使って商売し、財を成した。

*「貴殿」を「殿様」と読み間違える→〔姉弟〕9の『松曳き』(落語)。

★3.漢字二文字を、一文字に見間違える。

棒の手紙(日本の現代伝説『幸福のEメール』)  「これは棒の手紙です。あなたのところで止めると、必ず棒が訪れます。○○さんが止めたところ、○○さんは殺されました。文章を変えずに、十二日以内に二十八人に出して下さい」という手紙が来た。「棒の手紙」は、本来は「不幸の手紙」だった。横書きで「不」と「幸」がくっついて書かれていたのを、誰かが「棒」と見間違え、「棒の手紙」と書いて次の人に出し、以後そのまま書き継がれていったのである。 

★4.作文の題一題を、二題と見間違える。

『奇病連盟』(北杜夫)  山高武平は、一流新聞の入社試験を受け、作文を書かされた時、大失敗をした。試験官が、「日本経済への期待」という題を、一行で書けばよいのに、四文字ずつ二行に分けて黒板に書いたのだ。武平は、「日本経済」と「への期待」の二題のうち一つを選んで書くのだと誤解し、盲腸手術の経験を思い出しつつ、「への期待」について書いた。もちろん武平は不合格で、彼の作文は、その新聞社で出している週刊誌に、「珍答案」の例として載ってしまった。

★5.アルファベットの読み間違い。

『失われた時を求めて』(プルースト)第6篇「逃げさる女」  愛人アルベルチーヌが死んで何ヵ月もたった後のこと。「私」は、「アルベルチーヌ」と署名した電報を受け取った。無沙汰を詫び、結婚のことについて話したい、との内容だったので「私」は驚いた。実際はそれは、「私」がかつて恋したジルベルトからの電報で、彼女がサン=ルーと結婚することを知らせて来たのだった。ジルベルトの筆跡は独特なもので、電報局の局員が「G」を「A」と読み違えるなど何文字かの誤読があって、ジルベルトからの電報が、アルベルチーヌからの電報になってしまったのだ。

*数字の読み間違い→〔取り違え夫婦〕1の『覆面の舞踏者』(江戸川乱歩)。

★6.わざと読み間違える。

『太平記』巻1「俊基偽つて籠居の事」  日野俊基は、比叡山からの奏状を読み上げる時、「楞厳院(りょうごんいん)」を、わざと「慢厳院(まんごんいん)」と読み間違えた。諸卿は、「『楞』の旁(つくり)に『万』の字があるから『まん』と読むのなら、『相』は、偏も旁も「もく」だから、「もく」と読むべきだなあ」と笑った。俊基は、「たいへんな恥をかいたので籠居する」との口実をもうけて、半年ほど身を隠した。その間、彼はひそかに山伏姿となって諸国を巡り、倒幕計画を練った。

 

 

【嫁いじめ】

★1.姑が嫁を嫌って、何かと辛くあたる。

『捜神記』巻5−6(通巻97話)  丁氏は十六歳で謝家へ嫁いだが、姑が彼女をこきつかい、笞で叩くのでたえきれず、九月九日に首をくくった。死後、丁氏は神となり、「家々の嫁の労苦を哀れに思うゆえ、九月九日は嫁に仕事をさせるな」と託宣する。以来、この日は安息日となった。

『不如帰』(徳冨蘆花)  浪子は十八歳で海軍少尉川島武男に嫁ぎ、仲睦まじく暮らす。ところが姑お慶にとっては、若夫婦の睦まじさが不快であった。お慶の夫はすでに亡く、武男は一人息子だったため、お慶は息子を嫁に奪われたように感じ、何かにつけて、浪子に辛くあたる。やがて浪子が喀血したので、お慶は「川島家のためには、死病にかかった浪子を離別し、健康な女を武男の妻として迎えるべき」と考える。武男が軍務で不在中に、お慶は浪子を離縁してしまう。

*姑が嫁を嫌い、「嫁は鬼子を産んだ」「産んだ子を食った」などの嘘をつく→〔書き換え〕4の『カンタベリー物語』「法律家の話」、→〔濡れ衣〕3の『六羽の白鳥』(グリム)KHM49。

★2.姑が嫁を嫌って、無理難題を課す。

『黄金のろば』(アプレイユス)巻の4〜6  プシュケは人間の身でありながら、「女神ヴェヌスに劣らぬ美しさ」と言われ、人々は女神同様にプシュケをあがめた。そのプシュケが息子エロス(クピード)の嫁となったことに母女神ヴェヌスは立腹して、プシュケを打擲(ちょうちゃく)し、さまざまな難題を課していじめる→〔難題求婚〕6

『東海道名所記』巻3「西坂(にっさか)より懸川まで一里廿九町」  西坂(=日坂)に「嫁が田」がある。意地悪な姑が嫁に命じて、一畝(たん)の田を朝の間に植えさせた。嫁は、石に腰かけて死んだ〔*その後まもなく、姑は畑に出ていて、雷に撃たれて死んだ〕。

嫁殺し田の伝説  意地悪な姑が嫁に、「今日中に一人で田を植えよ」と命じる。嫁は懸命に植え、広い田も残り少なくなる。その時嫁は、太陽がどのあたりにあるか気になり、立ち上がって見る暇も惜しいので、田植えの姿勢のまま股の間からのぞく。その途端に嫁は目をまわし、死んでしまった(長野県北安曇郡松川村)。

★3.姑の善意の押し売りが、結果的に嫁いじめになる。

『近世姑気質』(三島由紀夫)  律子は、一人息子が嫁をもらった時、「理想的な姑になろう」と決意した。律子は、一家の炊事も洗濯も掃除もすべて自分でやってしまい、嫁にはまったく家事の苦労をさせなかった。さらに、自分の居室を若夫婦に明け渡して、女中用の三畳の小部屋に移ろうとさえした。嫁はいたたまれず、里へ帰ってしまった。律子はこうして無意識のうちに、気に入らない嫁を追い出すことに成功した。

 

 

【嫁えらび】

★1.年頃の娘たちを城へ招き、その中から花嫁を選ぶ。

『灰かぶり』(グリム)KHM21  国王が王子の花嫁を決めるため、三日間の饗宴をもよおし、国中の娘たちを城に招く。継母からいじめられている「灰かぶり(シンデレラ)」が、美しい装いで城へ出かけ、王子の心をとらえて、その花嫁となる〔*『サンドリヨン』(ペロー)では、「嫁選び」とは明示されない〕。

★2.年頃の娘たちがいる女学校へ行き、嫁を選ぶ。

『婦系図』(泉鏡花)前篇「縁談」  文学士河野英吉とその母親が、嫁選びの目的で女学校の授業参観をする。ドイツ文学者酒井俊蔵の一人娘で五年生の妙子が、首席であり、優美で上品で愛嬌もあるので、河野母子は妙子を嫁の第一候補として、健康状態や家の財産など、身元調査を始める〔*後に河野家は、妙子が芸者の子である(*→〔秘密の子〕2)ことを知って、破談にする〕。

『若い人』(石坂洋次郎)39  間崎慎太郎の勤める女学校では、三学期になると、中年過ぎの女たちが何人か連れ立って、息子の嫁選びのためにやって来る。学校側は、訪問者の家庭の事情や希望条件を聞き、候補者二〜三人の写真や成績表を示した上で、授業参観をさせる。五年生たちは「来たわ来たわ、私たちのマザー・イン・ローが」と言って騒ぐ。

★3.毎月一人ずつ、妻候補の女性と逢う。

『窓の教(おしえ)(御伽草子)  独身の三位中将が理想の妻を求めて、一月から十二月まで、一ヵ月に一人ずつ、合計十二人の女と逢う。どの女にもどこか欠点があったので、三位中将は失望し、「出家してしまおう」と吉野の奥へこもる。帝や院が三位中将を惜しみ、都へ呼び返して昇進させる。院は自分の娘・美貌の四の宮を、三位中将の妻として与える。やがて三位中将は関白になり、子宝にも恵まれて、一家は栄えた。 

 

 

【嫁くらべ】

★1.嫁たちの美貌や教養をくらべる。

『岩屋の草子』(御伽草子)  海士の岩屋に住む対の屋の姫君は、二位中将に見出されてその妻となる。中将の母がこれをきらい、他家に嫁いでいる四人の娘と対面させて恥をかかせ、追い出そうとする。しかし、美貌も教養も姫がいちばん優れていた。

『鉢かづき』(御伽草子)  山蔭三位中将家では、四男宰相の妻になった娘が、鉢をかぶった異様な姿なのでこれを嫌い、彼女に恥をかかせて追い出そうと、四人の息子たちの嫁くらべをする。しかし当日、鉢が割れて娘は天人のごとき美貌をあらわし、和琴・和歌などあらゆる点で三人の兄嫁を圧倒する。

『花世の姫』(御伽草子)  中納言家の四人の息子の一人・宰相殿が花世の姫と契りを結ぶ。これを知った宰相殿の母親が、嫁くらべをして花世の姫に恥をかかせ、追い出そうとはかる。花世の姫が、かつて山姥から授かった小袋(*→〔継子いじめ〕1b)を開けると、金銀、綾、錦繍、唐織物、かもじなどが出てきた。花世の姫はそれらで美しく身を装い、嫁くらべに勝つ。

★2.嫁たちの従順さをくらべる。

『じゃじゃ馬ならし』(シェイクスピア)第5幕  ペトルーキオ、ルーセンシオ、ホーテンシオという新婚の三人が、誰の妻がもっとも従順かの賭をする。「すぐここへ来い」との夫の命令に従ったのは、意外なことに、かつてのじゃじゃ馬娘、今ではペトルーキオの妻であるキャサリンただ一人で、彼女は他の二人の妻に、従順の美徳を説教するのだった。

 

 

【嫁と姑】

★1.嫁が姑を嫌う。

『ジャータカ』第432話  嫁が姑を嫌い、夫をそそのかして、姑を墓場で焼き殺そうとはかる。姑は死体を身代わりにして逃れ、墓場で出会った盗賊の持つ宝石類を手に入れて、家へ帰る。姑は「墓場で火葬された者は、その功徳で宝石が得られる」と嫁に教え、嫁は宝石欲しさに、火の中に入って死ぬ〔*少年が王に語る挿話〕。

『半日』(森鴎外)  高山博士の妻は結婚当初から姑を嫌い、同席を拒んだ。一月三十日の朝、宮中賢所の孝明天皇祭に博士が出席しようとすると、妻が、「姑の声を聞くのがいやだから娘を連れてどこかへ行く」と言う。博士は御所への参内を取りやめ、妻の話し相手をする。やがて台所で下女が昼食の支度を始める。

*姑の死後、仏壇に蛇が現れる→〔蛇に化す〕4bの『蛇』(森鴎外)。

『本朝二十不孝』巻4−2「枕に残す筆の先」  鰹屋助八夫婦は、一人息子・助太郎に嫁を持たせて隠居する。ところが、嫁が姑を嫌って尼寺へ駆けこみ、助太郎も妻恋しさに、家を出て行った。姑は「自分が命を捨てればよい」と思いつめて、絶食死する。一年後に、嫁を恨む姑の書き置きが発見される。世人は助太郎夫婦との交際を絶ち、助太郎夫婦は刺し違えて死ぬ。

★2.嫁が姑に孝行を尽くす。

『二十四孝』(御伽草子)「唐夫人」  唐夫人は、姑長孫夫人が年老いて食事を歯で噛めないので、自らの乳を含ませたり、毎朝髪をとかしたりなどして、数年間姑によく仕えた。長孫夫人は臨終時に一族を集め、唐夫人への感謝の言葉を述べた。

『ルツ記』  ナオミは夫エリメレクと死別した後、二人の息子に嫁を取るが、十年ほどして、息子たちは子を残さぬまま死んだ。二人の嫁のうち一人は去った。しかし、もう一人の嫁ルツは、姑ナオミのそばを離れなかった。ルツは落ち穂を拾って働き、富裕な男ボアズが彼女の働く姿を見て、好意を持つ。ボアズはエリメレクの親類だったので、ルツはボアズの妻となって子を産み、エリメレクの家系が絶えないようにした。ルツの曾孫にあたるのがダビデである。

*夫の死後も家にとどまる嫁が、しだいに姑を圧迫する→〔チフス〕1の『一塊の土』(芥川龍之介)。

★3.夫が死んだ後に、舅・姑の家へ行き、嫁として仕える。

『わが青春に悔なし』(黒澤明)  太平洋戦争前夜。京都帝大の八木原教授(演ずるのは大河内伝次郎)は、自由主義思想ゆえに罷免された。彼の教え子である野毛は大学を去り、東京へ出て反戦運動に従事する。八木原の一人娘幸枝(原節子)は、野毛を愛し彼と同棲する。しかし野毛はスパイの嫌疑で逮捕され、獄中で病死した。幸枝は、亡き野毛の妻として生きたいと願い、田舎の野毛の両親のもとを訪れ、「この家に置いて下さい」と頼み込む。彼女は、かつてピアノを弾いていた手で苗を植え、鍬を握り、農家の嫁として懸命に働く。終戦になり、八木原教授は教壇に復帰する。幸枝は京都へ赴き祝いを述べるが、すぐまた、自分の生きる場である野毛の両親の家へ帰って行く。

★4.姑が嫁を離縁する。

『塩狩峠』(三浦綾子)  明治十年代。永野貞行の妻菊は、クリスチャンであることを、姑トセに告白せずにいた。長男信夫が生まれた後、トセは菊がクリスチャンであると知って、離縁した。しかし貞行は離縁された菊のもとへひそかに通い、女児をもうけた。トセはそれを知った夜に、脳溢血で死んだ〔*長男信夫は成人後クリスチャンとなり、自らを犠牲にして大勢を救った〕→〔犠牲〕1

『心中宵庚申』(近松門左衛門)中之巻「上田村」〜下之巻「八百屋」  半兵衛は二十二歳で、大阪の八百屋伊右衛門の養子になった。彼は働きづめで店を大きくし、妻千代を得て睦まじく暮らす。しかし姑が千代を嫌った。半兵衛が実父の十七回忌のため浜松へ出かけた留守に、姑は、妊娠四ヵ月の千代を離縁する。

*喀血した嫁を、姑が離縁する→〔嫁いじめ〕1の『不如帰』(徳富蘆花)。

 

 

【余命】

★1.ろばの皮の大きさで、余命を知る。

『あら皮』(バルザック)  無一文になり身投げしようと考える青年ラファエルは、老骨董商から、不思議なろばのあら皮を得る。あら皮は、あらゆる願いを成就するが、そのたびに皮は縮み、それとともに所有者の寿命も縮める。ラファエルが伯父の遺産を得て金持ちになり、いくつかの願望を叶えるにつれて、あら皮は小さくなる。科学者の手を借りて皮を引き伸ばそうとしても、できない。ラファエルはしだいに衰弱し、愛するポーリーヌを抱いて、その乳房を噛んだまま死ぬ。

★2.酒や食べ物の残量で、余命を知る。

『閲微草堂筆記』「槐西雑志」巻12「定命」  酒好きの張子儀は五十余歳で病死し、棺に納められる時に蘇生した。彼は冥土で見たことを語った。「『張子儀』と書いた酒の大甕が三つあった。一つは封が開いていたが、まだたくさん酒は残っていた。あれを飲み尽くしてから、私は死ぬのだろう」。彼はその後二十年以上、飲みたい放題に酒を飲んだ。ある日、「昨夜、夢で冥土へ行ったら、三つの甕は空っぽだった」と言い、数日後に死んだ。

『鴨』(幸田文)  朱竹ダという偉い先生が若い頃、池にいっぱい鴨がいる夢を見た。池の番人が「あなたが一生の間に食べる鴨だ」と言った。何十年かの後、病気の朱竹ダは、また鴨の夢を見る。鴨は二羽しかいなかったので、彼は死期の近いのを悟る。そこへ娘が老父を慰めようと、鴨を料理して見舞いに来た。父(朱竹ダ)はやがて世を去った〔*著者が父幸田露伴から教わった話〕→〔餅〕5d

『太平広記』巻98所引『宣室志』  宰相李徳裕は、かつて夢で数多くの羊を見、「汝が一生の間に食べる羊だ」と告げられた。後、僧が李公を占い、「閣下は一生に一万匹の羊を食べるはずだが、今までに九千五百匹食べたので、あと五百匹残っている」と告げる。李公は「まだしばらく生きられる」と安堵するが、十日後に部下から五百匹の羊が届けられ、李公は自らの命数が尽きたことを知る。

『聊斎志異』巻7−280「禄数」  方士が某高官を見て、「貴方はあと米二十石、麺四十石を食べると、天寿が尽きる」と占う。高官は、「人が一年に食べるのは麺なら二石ほどゆえ、まだ二十年以上天寿がある」と喜ぶ。すると翌年、高官は除中(糖尿病の類か?)を病み、いくら大食しても空腹で、日に十数回も食べて、一年足らずで死んだ。

*食分は尽きたが、寿命は残っている→〔食物〕4の『正法眼蔵随聞記』第6−3。

★3.札束や宝石の残量で、余命を知る。

『金銭と悩み』(星新一『ご依頼の件』)  紳士(実は悪魔)が男に「一生遊んで暮らせる金をやろう」と言って、札束と宝石の詰まった箱を与える。男は喜んで豪遊乱費するが、やがて、「箱がカラになった時が自分の死期だ」と気づく。男は生活を一変し、金を使わないように、近所の川で毎日釣りをして暮らす。まったく面白くない。しかし長期的に見れば、悪魔に「ざまあみろ」と言ってやれるかもしれないのだ。 

 

 

【夜】

 *関連項目→〔闇〕

★1.夜に変身する。

『日本霊異記』上−28  文武天皇の時代、役の優婆塞(役行者)は、「天皇を害しようとした」と讒言され、捕えられて、伊豆の島に流された。彼は昼間は勅命に従って島にいたが、夜になると富士山まで行って修行をした〔*彼は三年後に釈放され、都に帰った〕。

『白鳥の湖』(チャイコフスキー)第2幕  悪魔ロットバルトが、王女オデットと侍女たちに魔法をかける。彼女たちは昼間は白鳥の姿になっていなければならず、夜だけ、湖のほとりで人間の姿にもどれる。夕暮れ時、狩に出たジーグフリード王子は美しいオデットを見て、彼女との結婚を誓う〔*しかし悪魔には勝てず、二人は愛をつらぬくために死を選び、湖に身を投げる〕。

『常陸国風土記』那賀の郡茨城の里哺時臥(くれふし)山  ヌカビコ、ヌカビメという兄妹がいた。ヌカビメは名も知らぬ男と夫婦になり、小蛇を産んだ。小蛇は、昼間は口のきけない者のごとくだったが、夜になると母ヌカビメと語り合った。ヌカビコ、ヌカビメ兄妹は、「これは神の子だろう」と思った。

*夜、こうもりに変身して遊びに出かける→〔こうもり〕2の『こうもり』(バレエ)。

★2a.夜に謎の外出をする。

『大鏡』「伊尹伝」  少将義孝は美貌の貴公子だったが、宮中の女房と親しく言葉を交わすようなことはなかった。ある夜、彼は珍しく細殿の局に立ち寄り、女房たちと世間話をして、夜更けに立ち去った。女房たちが後をつけさせると、義孝は世尊寺まで行き、紅梅の下で「滅罪生善往生極楽」と唱えて、西に向かい幾度も額づいていた(*義孝は二十一歳で病死した→〔同日の死〕1)。

『壺坂霊験記』  盲目の按摩沢市は、妻お里が毎晩こっそり外出するので、「男に逢いに行くのだろう」と咎める。しかしそれは、お里が夫の眼を治そうと、壺坂寺の観音に願かけに行っていたのだった。沢市は自分の誤解を詫び、夫婦は連れ立って壺坂寺へ参詣する→〔投身自殺〕2

『墓場の鬼太郎』(水木しげる)  血液銀行の社員水木が、幽霊族の子・鬼太郎を育てる。鬼太郎が六歳になった頃、時々夜中に外出するので、水木があとをつけると、鬼太郎は墓場の穴の中へ姿を消した。鬼太郎は目玉親父に連れられて、死人の世界へ遊びに行っていたのだった。

『耳なし芳一のはなし』(小泉八雲『怪談』)  盲目の琵琶法師芳一が、夜ごと平家の武将に呼ばれ、高貴な方の屋敷へ行って、壇の浦の合戦の物語を語る。芳一が居住する寺の和尚が、芳一の夜の外出を怪しみ、下男たちにあとを追わせる。芳一は墓地に座し、安徳天皇の陵墓の前で琵琶をかき鳴らしており、まわりには無数の鬼火が燃えていた。

*夜、墓地へ行く僧→〔死体変相〕2aの『閑居の友』上−19。

*夜、墓地へ行く妻→〔無言〕2aの『野の白鳥』(アンデルセン)。

★2b.夜、身体は家で眠っていて、魂だけが外出する。

『現代民話考』(松谷みよ子)4「夢の知らせほか」第3章の2  昭和四〜五年(1929〜30)の話。善宝寺の門前の店のおばさんは、夜中に近所の子供たちが寺へ遊びに来る声が聞こえ、姿が見える。その中に、たまに淋しそうにうつむいた子供がいると、四〜五日後に、その子は死ぬ。夜、子供たちが眠ると魂は身体を離れ、寺の境内のお地蔵さんの所へ来て遊ぶので、おばさんにはその姿が見えるのだそうだ(山形県)。

★2c.夜に天界へ昇る。

『今昔物語集』巻4−26  仏涅槃九百年後、中天竺に無着菩薩という聖人がいた。夜は兜率天に昇って、弥勒菩薩のもとで大乗の法を習い、昼は閻浮提(えんぶだい。=現世)に下って、衆生のために法を広めた〔*魂だけ天界へ行っていたのか、身体ごと行っていたのか、どちらであろう?〕。

*小野篁は、現世と冥府の両方で仕事をした→〔冥府往還〕1の『江談抄』第3−39。 

★3.夜にだけ訪れる夫。

『黄金のろば』(アプレイユス)巻の5  プシュケは西風によって、山上から谷あいの宮殿に運ばれた。そこでは形のない声が、彼女を案内し給仕する。毎夜、正体不明の夫がどこからか訪れ、プシュケとともに寝て、夜明け前に去る→〔夫〕6

『日本書紀』巻5崇神天皇10年(B.C.88)9月  崇神天皇の姑(をば=祖父の姉妹)にあたる倭迹迹日百襲姫命(やまとととびももそひめのみこと)は、大物主神の妻となった。しかし夫の神は、昼には現れず、夜だけやって来た→〔箱を開ける女〕1

★4.夜の夫と昼の夫。

『ガラスの山』(イギリスの昔話)  美貌の若者が、あるお嬢さんと結婚した。夫(若者)は妻(お嬢さん)に、「僕が夜のあいだ人間で、昼間は牛でいるのと、夜は牛で昼は人間でいるのと、どっちがいい?」と聞く。妻は「夜のあいだ人間で、昼間は牛の方がいいわ」と答える〔*夫婦の間に三人の子供ができるが、夫は魔法にかかっていたため、妻を捨ててガラスの山へ行ってしまう〕→〔ガラス〕2

『太平御覧』「東食西宿」の故事  一人の娘の所へ、東の家と西の家の両方から、「嫁に来てほしい」との申し入れがあった。東の家は金持ちだが息子は醜男、西の家は貧乏だが息子は美男子だった。娘は「昼間は東の家で食べ、夜は西の家で寝たい」と言った。

龍犬盤瓠(ばんこ)王となる(中国・ヤオ族の神話)  高辛王の三人娘の末子が、龍犬の嫁になった。姉二人は、犬と結婚した妹をあざ笑う。しかし龍犬は、昼は犬の姿をしていても、夜になるとりりしい若者に変身した。それを知った姉たちは、歯噛みして悔しがった。

*昼間は壺だが、夜は人間になる夫→〔壺〕4の『壺むすこ』(インドの昔話)。 

 

 

【夜と昼】

★1.夜が先に生じ、後に昼が生じた。

『ギリシア哲学者列伝』(ラエルティオス)第1巻第1章「タレス」  タレスは、ギリシアの七賢人の一人だった。ある人から「夜と昼とどちらが先に生じたか?」と訊ねられて、タレスは「夜のほうが一日だけ先だ」と答えた。

*闇の中に光明が射し、昼が生まれた→〔天地〕4の『南島の神話』(後藤明)第1章「南島の創世神話」。 

★2.夜が一日の中心で、一日は夜から始まる。

『ガリア戦記』(カエサル)第6巻の18  ガリー人はディース(冥府の神)を共通の祖先としている。そのため暦を、日の数でなく夜の数でかぞえる。誕生日も朔日(ついたち)も元日も、夜から始まるものとして祝われる。

★3.夜から一日が始まるので、昼間からその日の朝を振り返って「今朝」と言うように、朝から夜を振り返って「今夜」と言う〔*「昨夜」とは言わない〕。

『古事記』上巻  海神宮を訪れてトヨタマビメと結婚したホヲリ(山幸彦)は、三年たったある夜、大きなため息をついた。朝になってから、トヨタマビメは父の大神に、「これまでそんなことはなかったのに、今夜、我が夫は大きなため息をつきました」と知らせた。

『今昔物語集』巻4−18  夜、『法華経』を聴聞した象に、翌日、慈悲心が生じた(*→〔象〕9)。智恵のある人が「この象は今夜どこにつないだのか? 僧房ではないか?」と問い、「今夜、象は僧房で経文を聞いたので、慈悲心が生じたのだ」と言った。

『太平記』巻3「主上御夢の事」  「木の南の御座」という霊夢を見た後醍醐帝は(*→〔漢字〕2)、夜が明けてから人に尋ねて、楠正成のことを知った。帝は「今夜の夢の告げは、このことだ」と思い当たり、ただちに楠正成を召し寄せた。

*現代と同様の、「昨夜の夢」という言い方もあった→〔夢告〕3の『日本書紀』巻5崇神天皇7年8月。 

*→〔仏を見る〕1の『更級日記』では、十月十四日の朝に、夜見た夢をふりかえって「十月十三日の夜の夢(昨日の夜の夢)」と言っている。 

★4.はじめは昼だけで、後から夜ができた。

盗まれた太陽(ロシアの民話)  昔は一日じゅう太陽が輝き、夜はなかった。ある時、雌雄のヘラジカが太陽を盗んで逃げたため、地上に夜が訪れ、人々は困ってしまった。猟師マニが、ヘラジカたちを追って弓矢で射止め、太陽を取り戻して人間に返した。昼と夜が交互にやって来るようになったのは、この時からだ。毎晩ヘラジカが太陽を盗み、マニが追いかけ、明け方に太陽を取り返すのだ。

『マイトラーヤニー・サンヒター』  双子の兄ヤマが死に、妹ヤミーはいつまでも「ヤマは今日死んだ」と言って忘れなかった。その時代には昼のみあって夜がなかったので、神々が夜を作り、翌日というものが生じた。そこでヤミーはヤマを忘れることができた。

 

※夜は外に出て行動し、昼はとじこもる怪物→〔吸血鬼〕に記事。

※夜だけ現れ、朝になると逃げ去る鬼→〔笛〕5の『神道集』巻4−18「諏訪大明神の五月会の事」。

※山姥が現れる時も、にわかに日暮れとなった→〔山姥〕1の『山姥』(能)。

※夜なのに、魂が身体から出ると、まわりは昼間のごとく明るい→〔太陽〕13の『今昔物語集』巻9−32。

 

 

【四十歳】

★1.初老となった四十歳で、あらたに結婚し・出産して、人生の新段階をむかえる。

『一寸法師』(御伽草子)  津の国難波に翁と媼がいた。媼は四十歳まで子がないことを悲しみ、住吉大明神に参詣して子授けを祈願した。大明神はこれをあわれみ、翌年、媼は四十一歳で懐妊し、十ヵ月後に一寸法師を産んだ。

『源氏物語』「若菜」上〜下  光源氏は四十歳の時に、兄朱雀院の懇望により、十代半ばの女三の宮をめとった。それから数年後に、光源氏の最愛の妻紫の上は重い病を得、幼な妻女三の宮は柏木と密会して子をもうける、などのことが起こった。

『蛤の草子』(御伽草子)  天竺の「しじら」という男は独身で、老母と暮らしていたが、四十歳の時に、釣り上げた蛤から出現した十七〜八歳の美女と結婚する。しじらは、美女の織った織物を売って莫大な富を得る。また彼は、観音浄土を訪れ七徳保寿の酒を飲んで、七千年の長寿を得た。

『文正草子』(御伽草子)  文正は塩を売って長者になったが、子供がなかった。文正の妻は四十歳になって鹿島明神に子を祈願し、蓮華二房を賜る夢を見た。妻は十ヵ月後に姉娘を、それから一年後に妹娘を産んだ。

*四十歳の男が、男子誕生を祈る→〔申し子〕1の『風流志道軒伝』巻之1。

★2.四十歳に達した人を殺す。

『枕草子』「蟻通し明神」の段  昔、帝が若い人ばかりを寵愛し、四十歳以上の人を殺した。四十歳をこえた人たちは皆、遠い他国へ逃れ、都のうちに老人はいなくなった〔*しかし、都に隠れ住む老人の知恵によって国難が解決できたので、帝は、四十歳以上の人の居住を許可した〕。

 

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