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【僧】 

★1.僧と后・姫君。

『ささやき竹』(御伽草子)  左衛門の尉夫婦が十四歳の姫の良縁を願い、六十七歳の西光坊が毘沙門の法を行なって祈祷する。ところが西光坊は姫の美貌に愛欲の心を起こし、左衛門の尉夫婦をだまして、姫を長櫃に入れて鞍馬へ連れ去る。途中、関白が姫を救い出し、櫃の中へ牛を入れておくので、西光坊は、「姫が牛に化した」と驚く。西光坊は天罰で雷電に身体を裂かれ、姫は関白の妻になった。

『志賀寺上人の恋』(三島由紀夫)  女犯の罪を犯すことなく高齢に達した志賀寺上人が、美貌の京極御息所を見て恋に落ちる。上人は御息所の御所の庭に、杖にすがって一日一夜立ち尽くす。御息所が上人を御簾の前へ招くと、上人は御息所の手を押しいただき、しばらくの後に、手をほどいて立ち去る。数日後、上人が草庵で入寂した、との噂を御息所は聞く〔*『俊頼髄脳』では、志賀寺上人は九十歳であったとする。『浄瑠璃十二段草子』(御伽草子)では八十三歳とし、御息所は懐妊して、顔が六つ・手が十二本ある子供を産んだ、と記す〕。

『大和物語』第105段  近江の介中興の娘が病み、浄蔵大徳が加持祈祷をするうちに、二人は情を通じてしまった。この娘は、親が大切に育て、皇子や上達部の求愛も退けて、帝に奉るつもりだったが、このことがあったため、親も世話をしなくなった〔*『今昔物語集』巻30−3に類話〕。

*僧が鬼と化して、后と交わる→〔鬼に化す〕2aの『今昔物語集』巻20−7。

★2.僧と遊女。

『小袖曾我薊色縫(こそでそがあざみのいろぬい)(河竹黙阿弥)  極楽寺の僧清心は、大磯の遊女十六夜(いざよい)と情を通じ、十六夜は清心の子を宿す。女犯の罪が発覚して清心は寺を追われ、十六夜とともに稲瀬川に身投げをする。しかし死にきれず、二人はいったん別れ別れになり、後にまた再会する→〔心中〕1

『撰集抄』巻9−8  江口の里で時雨にあった西行が、晴れ間を待つ間の宿りを請い、主の遊女に拒まれる。西行が「世の中をいとふまでこそ難からめ仮りの宿りを惜しむ君かな」と詠むと、遊女は「家を出づる人とし見れば仮りの宿に心とむなと思ふばかりぞ」と返し、中へ入れる〔*『新古今集』巻10に贈答歌あり〕。

『たけくらべ』(樋口一葉)  十五歳の藤本信如は龍華寺の跡取息子、十四歳の美登利は遊女大巻の妹で、ともにやがては僧となり遊女となる身の上である。二人は同じ育英舎に通うが、互いを意識するようになってからは、めったに口もきかない。ある霜の朝、美登利の家の格子門に水仙の造花が差し入れてあり、その翌日、信如は某学林へ旅立った。

*僧が、遊女の長者(娼家の女主人)を訪れる→〔仏を見る〕2の『撰集抄』巻6−10。

★3a.僧がこの世に遺した物への執着心によって、死後、蛇の身を受ける。

『今昔物語集』巻13−42  六波羅蜜寺の僧講仙は、僧坊の前に橘の木を植え、二葉の頃から枝葉が繁り花咲き実のなるまで、大切に世話をした。死後、彼は愛執の過ちにより、小蛇となって木の下に住んだ。

『今昔物語集』巻13−44  定法寺の別当は博打や酒色を好み、三宝を敬わなかった。年月積もって彼は病みついて死に、後に大毒蛇の身を受けて苦しんだ。

『今昔物語集』巻14−1  比叡山の無空律師は、葬儀の費用に銭一万を僧坊の天井に隠して置いた。臨終時にそのことを弟子達に告げることができず、彼は死後、蛇となって銭にまといついた。

★3b.眠る僧の魂が、蛇となって金貨を守る。

『夜窓鬼談』(石川鴻斎)上巻「蛇妖」  某住職の弟子が、金貨二十枚余りを寺庭の石の下に隠し、常にその金貨のことを気にかけていた。ある時、昼寝をする弟子の魂が、蛇の形となって身体から抜け出、石の上にとぐろを巻く。住職が碁笥の蓋を投げつけると、蛇は逃げる。その時、弟子は「美しい山に遊び、大きな石の上に座っていたところ、車輪ほどの板を投げつけられる」との夢を見ていた。

★3c.高徳の僧が自らの意志で、死後に蛇となる。

『諸国里人談』(菊岡沾凉)巻之4・7「水辺部」桜が池  比叡山の阿闍梨皇円は、源空上人(浄土宗の開祖)の師である。皇円は言った。「長寿を得るには、蛇身となるのがもっとも良い。私は蛇身となって、弥勒の出世(五十六億七千万年後)を待つ。遠州の桜が池は深いと聞くので、そこに住もう」。臨終に及んで皇円は、桜が池の水を掬(きく)し、彼の死と同時に池水が大きく波立った。今もなお、静かな夜には、池の辺に鈴の音が聞こえる。

*五十六億七千万年後→〔二人の仏〕3aの『卒都婆小町』(能)など、→〔二人の仏〕3bの『百億の昼と千億の夜』(光瀬龍)。

★4.悪僧。

東尋坊の伝説  越前国・平泉寺(へいせんじ)の東尋坊は強欲で乱暴な悪僧だったため、皆、困り果てていた。一一八二年四月五日、寺侍真柄覚念が東尋坊を三国海岸見物に誘い出し、酔いつぶして、絶壁から海へ突き落とした。以来、毎年四月五日前後に海が荒れるので、絶壁の上で供養が行なわれ、海は静まった。この出来事が語り継がれる内に、いつの頃からか、この地を「東尋坊」と呼ぶようになった(福井県三国町)。

★5.兵士が僧になる。

『ビルマの竪琴』(竹山道雄)第2話「青い鸚哥(インコ)」〜第3話「僧の手紙」  ビルマ戦線で戦ったわれわれの部隊は、捕虜収容所で一年ほど過ごした後、日本へ帰還することとなった。しかし水島上等兵はビルマにとどまり、僧になった。「山野に放置された無数の日本兵の死体を埋葬することが、自らの使命だ」と考えたのである。別れの時、水島は無言のまま、竪琴(*→〔琴〕6c)を激しくかき鳴らした。われわれは口々に、「おーい、水島。いっしょに日本へ帰ろう」と叫んだ。しかし水島は背を向けて歩み去った。

 

※旅の僧と宿の女→〔言霊〕3の『道成寺縁起』、→〔宿の女〕2の『高野聖』(泉鏡花)。

※小僧と山姥→〔守り札〕1の『三枚のお札』(日本の昔話)。

※僧の肖像画を描こうとすると、観音菩薩の姿が現れる→〔仏を見る〕4の『日本霊異記』上−20、→〔仏を見る〕5の『宇治拾遺物語』巻9−2。

 

 

【象】

★1.空飛ぶ象。 

『ダンボ』(シャープスティーン)  コウノトリが、サーカス団のお母さん象の所へ、赤ちゃん象ダンボを運んで来る。ダンボは耳が異様に大きかったので、サーカスを見に来た子供たちにからかわれる。鼠がダンボに同情し、大きな耳を翼にして空を飛ぶことを提案する。「君の悩みの大きな耳は、本当は隠れた才能だったんだ」。ダンボはサーカス小屋の中を自由自在に飛びまわり、観客は大喜びする。ダンボはたちまち人気者となり、ハリウッドと契約するまでになった。

★2.象を働かせる。 

『オツベルと象』(宮沢賢治)  オツベルは六台の稲扱(いねこき)器械を持ち、十六人の百姓を雇っていた。ある日、森から一頭の白象が出て来て、稲こきを面白そうに見る。オツベルは言葉巧みに、水汲みや薪運びの仕事を白象に勧める。白象は喜んで働き始めるが、オツベルは次第に過重な労働を課すようになる。白象はたまりかねて、森の仲間たちに救いを求める。たくさんの象が押し寄せ、オツベルを踏みつぶして白象を助け出す。

★3.象の恩返し。

『広異記』44「象牙の中の龍」  川辺で芦を刈る男を、子象が鼻で巻き上げ、背中に乗せて、沼地の奥まで運んで行く。そこには親象がいて、足の裏に竹のとげがささって苦しんでいた。男はとげを抜いてやり、子象は返礼に、大きな象牙を男に与える。象牙は、その中に龍が二匹絡み合っている、という珍しい宝物で、則天武后に献上された→〔観相〕9

『今昔物語集』巻5−27  天竺の深山を通る比丘を、子象が鼻に引っかけて捕らえ、親象の所へ運んで行く。親象は、太い杭を足に踏み抜いていた。比丘は杭を抜いてやり、親象はたいへん喜ぶ。子象は再び比丘を鼻に引っかけて、遠方の墓まで連れて行く。そこには多くの財宝があった。比丘は、象を助けた返礼の財宝を得て、家に帰った。

★4.象の頭を持つ神。

『ブラフマヴァイヴァルタ・プラーナ』  ガネーシャは、父シヴァ神の怒りにふれて首を切り落とされた。母パールヴァティーが嘆き悲しんだので、シヴァ神は息子を生き返らせることを約束し、最初にそこを通りかかった象の頭を代わりにつけた〔*ガネーシャは、智慧を授け富をもたらす幸運の神として、信仰されている〕。

★5.象人間。

『エレファント・マン』(リンチ)  青年ジョン・メリック(演ずるのはジョン・ハート)は醜怪な姿ゆえに「象人間」と呼ばれ(*→〔妊娠〕1b)、見世物小屋に出ていた。外科医トリーブス(アンソニー・ホプキンス)が病院の一室をジョンに与え、世話をする。ジョンは高い知能を持ち、読み書きもできた。ジョンに好意を持つ人々が彼の部屋を訪れ、ジョンはいくらか人間らしい生活ができるようになる。ある日、ジョンは観劇に招待され、至福の一時を過ごした。彼はその夜はじめて、普通の人間のように仰向けで就寝する〔*仰向けはジョンの身体にとって致命的な姿勢であり、彼はそのまま死んでいった〕。

★6a.大象が狭い窓から出る。

『沙石集』巻10本−10  「大象が窓から出ようとする。体は出たが、尾が引っかかって出られない」という夢を、国王が見た。夢の意味を仏に問うと、仏は「捨て難い世を捨てようとして、名利のために捨て切れないのだ」と、夢合わせをした。 

*→〔尾〕4の「牛の体は窓外を過ぎ、尾だけ残る」(『無門関』38「牛過窓櫺」)と、関連があるだろう。また、→〔針〕9の「ろばが針の穴を通る」(『マタイによる福音書』第19章)とも類似する発想である。

★6b.大象が小さな門を通れない。

『象』(谷崎潤一郎)  享保(1716〜36)の某年、六月十五日。広南国から幕府へ献上された象が、花車(だし)を牽(ひ)いて江戸の町を歩いた。千代田城周辺の道端に、武家や町人が大勢居並んで見物する。象は半蔵門を入ろうとして、巨体が門を塞ぎ、前へも後へも動けなくなる。老年の武士と町家の隠居が、「小さな門へ大きな獣を入れようとするのは、若い者の無鉄砲じゃ」「さようでございますな」と話し合う。 

★7.象の夢。

『過去現在因果経』巻1  兜率天の善慧菩薩(釈迦の前生)は、「人間界に生まれるべき時が来た」と考え、六本の牙のある白象にまたがって、下界へと出発した。四月八日、明けの明星の出る頃、浄飯王の后摩耶夫人(まやぶにん)は、夢うつつの状態で、「六牙の白象に乗った人が空を飛んで来て、右脇から胎内に入る」と見て懐妊した〔*『ジャータカ』「因縁物語」に類話〕→〔誕生(母体から)〕1

★8.象の重さ。

『今昔物語集』巻5−32  「老ヲ捨ツト云フ国(棄老国)」に、隣国から三つの難題が突きつけられた。そのうちの一つは、「象の重さを計れ」というものだった。隠れ住む老母(*→〔親捨て〕3)が、「象を船に乗せ、喫水線の所に墨で印を着ける。象を下ろし、代わりに石をたくさん入れて、喫水線を墨印に合わせる。船に入れた石の総重量が、象の重さだ」と教え、難題を解決した。 

★9.人を殺す象。

『今昔物語集』巻4−18  天竺の某国では、象を酒に酔わせて、罪人を踏み殺させていた。ある夜、象は僧房につながれて、『法華経』読誦の声を聞く。すると翌日、象は罪人たちの前に伏して彼らの踵をなめ、一人も殺そうとしない。そこで次の夜は、象を屠殺場のそばに置いた。翌日、象は歯噛みをして罪人たちに走りかかり、ことごとく踏み殺した。

『大般涅槃経』(40巻本)「梵行品」  阿闍世王が一頭のあばれ象を放って、仏陀や弟子たちを殺そうとした。象は多くの人々を殺傷し、血の匂いに刺激されて、いっそう凶暴になった。仏陀は、あばれ象を鎮めるために、五本の指に五頭のライオンの姿を現して、象に突きつける。あばれ象はそれを見て怖れ、仏陀の足もとにひれ伏した。

★10.象を射殺する。

『象を射つ』(オーウェル)  英国人である「わたし」は、ビルマの或る町で警官をしていた。さかりのついた象が暴れ出し、インド人の苦力(クーリー)を一人、踏み殺した。「わたし」がライフル銃を持って現場へ行くと、二千人もの群衆がついて来た。「わたし」は、もうあとへは引けぬと思い、象の巨体に何発も銃弾を撃ち込んだ。「たかが苦力ひとりより、象の方がもっと値打ちがある。象を射殺するなんて不見識だ」という意見もあった。

★11.群盲象を撫でる。

『スーフィーの物語』5「盲人と象」  アフガニスタンの東方に、盲人だけの住む街があった。ある日、軍隊が一頭の象を連れて来たので、盲人たちは手探りで象に触れ、互いの体験を話し合った。耳に触れた者は「大きな平べったい生き物で、絨毯(じゅうたん)のようだ」と言った。鼻に触れた者は「管のような体をした、危険なやつだ」と言った。脚に触れた者は「丸くて太い、柱のような生き物だ」と言った。

『大般涅槃経』(40巻本「師子吼菩薩品」)  一頭の象に、大勢の盲人が手を触れた。「象はどのようなものか?」と問われて、牙に触れた者は「大根のようだ」と答えた。耳に触れた者は「箕」、頭に触れた者は「石」、鼻に触れた者は「杵」、脚に触れた者は「臼」、背に触れた者は「ベッド」、腹に触れた者は「水瓶」、尾に触れた者は「縄」と答えた。 

 

※人間が象に転生する→〔転生先〕5aの『屍鬼二十五鬼』(ジャンバラダッタ本)第21話。

※象と同名の人→〔同名の人〕5の『マハーバーラタ』第7巻「ドローナの巻」。

 

 

【像】

 *関連項目→〔人形〕

★1a.像を夫や妻のごとく愛する。神が像に生命を与える。

『変身物語』(オヴィディウス)巻10  ピュグマリオンは、自ら象牙を刻んで造った乙女の像に恋心を抱く。女神ヴェヌス(アフロディーテ)が彼の思いを知り、象牙の乙女に命を与える。ピュグマリオンの口づけに乙女は目を開く。

『ペンタメローネ』(バジーレ)第5日第3話  ベッタは、砂糖・アーモンド・香水・宝石・金の糸などで若者の像を造る。愛の神に祈ると像に生命が宿り、ベッタは像を夫として「ピント・スマルト」と名づける。女王が彼に横恋慕して連れ去るが、ベッタは夫を取り戻し、まもなく男児を産む。

★1b.像が生きた仏となる。

『風流仏』(幸田露伴)  仏師珠運は木曽の宿で美女お辰と出会い、結婚しようとする。しかしお辰は岩沼子爵の生き別れた娘であることがわかり、二人の仲は引き裂かれた。珠運はお辰を偲んで、彼女に生き写しの観音像を彫る。やがてお辰と某侯爵婚約の報が届き、怒った珠運は、鉈で観音像を打ち割ろうとする。その時、像はお辰と化して珠運を優しく抱き、二人は一緒に天へ昇って行った。

★1c.土で造った像に生命が宿り、動き出して暴れる。

『大魔神』(安田公義)  戦国時代、丹波の山奥に、背丈十メートルほどの埴輪型の武神像があった。その地では、家老が謀反を起こし城主を殺して、悪政をほしいままにしていた。城主の娘小笹の願いにより、武神像に地下の魔神が乗り移り、武神像は鬼のごとき形相となって動き出す。武神像は城を破壊し、家老一派を皆殺しにして、暴れ回る。武神像はさらに村里へ向かおうとするので、小笹は「お鎮まり下さい」と訴える。武神像は穏やかな顔に戻り、崩れ落ちて土と化した。

*映画『大魔神』の発想源は、→〔人造人間〕5のゴーレムの物語だといわれる。 

★2.夫が死んだので、夫の像を作って交わる。

『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第3章  ラオダメイアは、戦死した夫プロテシラオスに似た像を作り、これと交わった。ヘルメス神が、冥府からプロテシラオスをいったん連れ戻し、ラオダメイアは喜んだ。しかし夫は再び冥府へ帰されたので、ラオダメイアは自害した。

『聊斎志異』巻5−190「土偶」  王氏の夫は早死にした。王氏は塑像造りに頼んで、夫に似た土偶を作り、食事を供える。ある夜、土偶が動き出し、みるみる人間並みに大きくなって、夫の姿になった。夫は王氏と交わり、一ヵ月余り立って王氏の妊娠がわかると、別れを告げて去って行った。王氏は男児を産んだが、日向(ひなた)で抱いても影が淡く、霧のようだった。

★3.美女の像に心をうばわれ、そのモデルの王女を妻とする。

『忠臣ヨハネス』(グリム)KHM6  老王が「城内の一つの部屋だけは、息子に見せるな」と忠臣ヨハネスに遺言して死ぬ。しかし息子の王は、禁ぜられた部屋に入り、美しい王女の立像を見て心をうばわれる。王は忠臣ヨハネスを連れて、立像のモデルである王女の住む、黄金の屋根の国へ船出する→〔無言〕1c

★4.像が人間の身代わりになる。

『ジャータカ』第61話  百二十歳の老母が、息子を殺そうとたくらむ。息子は、等身大の木像に覆いをして床に置く。老母は斧で息子の首を一撃し、それが木像であると知って、倒れて死んだ。

『菅原伝授手習鑑』2段目「道明寺」  筑紫へ配流される途中の菅原道真が、河内国の伯母のもとを暇乞いに訪れる。道真を暗殺すべく、にせ役人が迎えに来て、道真は輿(こし)に乗るが、後に見ればそれは木像だった。道真が自らの姿を形見として遺すために刻んだ木像が、身代わりになって輿に乗ったのであった。

★5.像の中に物を隠す。

『六つのナポレオン』(ドイル)  ボルジア家の黒真珠を盗んだ男が警官に追われ、自分が勤めていた石膏像の製造工場へ逃げこむ。六つのナポレオン像のうちの一つが生乾きで柔らかかったので、男は像の中へ真珠を押し入れる。後に男は、ナポレオン像の売られた先を調べ、像を壊して真珠を取り戻そうとする。

★6.宝石や金で飾られた像。

『幸福な王子』(ワイルド)  町の広場に立つ王子の像は全身金箔でおおわれ、目にサファイア、刀の柄にルビーが、耀いていた。王子は、宝石を抜き取り金箔をはがして、貧しい人々のもとに運ぶよう、つばめに依頼する。冬が来て、つばめは寒さのために死んだ。王子の鉛製の心臓は割れた。

★7.像の背丈が伸びる。

『大唐西域記』巻11・1・6  僧伽羅国の精舎には、先王の背丈と等しい金の仏像があり、頭部の肉髻(にくけい)に宝石が飾られていた。盗賊が侵入して宝石を取ろうとしたところ、仏像の背丈がしだいに高くなって、取ることができなかった。盗賊は落胆し、「仏が宝石を惜しむとは」と言うと、仏像は首をうつむけて、盗賊に宝石を与えた。

『美神』(三島由紀夫)  ドイツ人R博士は、古代ローマのアフロディテ像を発掘した時、自分と像だけの秘密を作りたいと考え、像の実際の背丈二・一四メートルよりも三センチ多い数を、世界の学界に公表する。十年後、臨終の床にあるR博士からこの秘密を聞いたN医師が、像の背丈を測ると二・一七メートルあった。R博士は、「裏切りおったな」と言って死んだ〔*→〔箱〕2の『日本霊異記』中−6と類想〕。

★8a.像を食事に招待する。

『ドン・ジュアン』(モリエール)  ドン・ジュアンは、かつて決闘をして一人の騎士を殺した。その騎士の石像が建てられたので、ドン・ジュアンは石像を見に行き、「拙宅へ晩餐においでなさい」と冗談を言う。すると石像がうなずく。翌晩、石像は本当にドン・ジュアンの所へやって来る→〔土〕5a

『聊斎志異』巻2−47「陸判」  朱爾旦は肝だめしで十王殿まで出かけ(*→〔肝だめし〕1)、判官の木像を背負って酒席へ帰って来る。彼は判官像に杯をささげ、「拙宅へ飲みにおいで下さい」と誘って、判官像を十王殿に戻す。すると翌晩、判官像は本当に朱爾旦の家へやって来た〔*彼は「姓は『陸』」と名乗り、「名も字(あざな)もない」と言った〕→〔心〕8a

*死者を食事に招待する→〔首くくり〕5の『ドイツ伝説集』(グリム)336「絞首台から来た客」。

★8b.像と結婚の約束をする。 

『ヴィーナスの殺人』(メリメ)  アルフォンスは自らの結婚式当日、テニスの試合に興じ、ラケットを持つ手に邪魔な指輪をはずして、銅製のヴィーナス像の指にはめる。試合後に指輪を取ろうとすると、像が指を曲げ、指輪が取れなくなっているのでアルフォンスは困惑する。その夜、アルフォンスと花嫁の新床にヴィーナス像が現れ、強い力でアルフォンスを抱き締めて殺した。

『捜神記』巻5−3(通巻94話)  三人の男が蒋子文を祭る廟へ遊びに行き、いくつかの婦人の神像をそれぞれ指さして、「おれの嫁はあれだ」と冗談を言い合う。三人の夢枕に蒋侯が立って「良い縁組である」と礼を言い、「某日を期して三人を迎え取る」と告げる。三人は恐れ、取り消しを請うが、まもなく皆死んだ。

*大人が子供と結婚の約束をする→〔言霊〕7の『サザエさん』(長谷川町子)。

★9.像を傷つける。

『黄金伝説』3「聖ニコラウス」  ユダヤ人が、聖ニコラウス(サンタ・クロース)の像を造り、財産を守ってくれるよう願う。にもかかわらず泥棒が入ったので、ユダヤ人は怒って像を笞打つ。すると、盗品を分ける泥棒たちの所へ、傷だらけの聖ニコラウスが現れて、「盗んだものを返せ」と命じた。

『グリーブ家のバーバラ』(ハーディ)  美貌のエドモンドは、火事で顔に醜い火傷を負ったため、妻バーバラと別れ、やがて病死した。彼は火傷を負う以前に、自らの美貌を写した等身大の立像を造っていたので、バーバラはそれを見てエドモンドをしのぶ。しかしバーバラの新しい夫は、これに嫉妬して、立像の顔面に火傷そっくりの醜い傷をつけた〔*谷崎潤一郎はこの小説にヒントを得て、『春琴抄』を書いたと言われる〕。

『二十四孝』(御伽草子)  丁蘭は十五歳で死別した亡母の木像を造り、生きた人に仕えるごとくしていた。丁蘭の妻が火で木像の面を焦がすと、瘡のように腫れ、膿血が流れた〔*二日後、妻の髪が落ち、妻は三年間、木像に詫びた。『蒙求』415「丁蘭刻木」などが原拠〕。

★10.像を作るのではなく、木の中から像を掘り出す。

『夢十夜』(夏目漱石)第6夜  明治の代なのに、鎌倉時代の運慶が仁王像を彫っている。無造作に鑿をふるって見事な像ができてゆくので、「自分」は感心する。見物の若い男が、「あれは、木の中に埋まっている仁王を鑿と槌で掘り出しているのだ」と言う。「自分」も木を彫ってみたが、明治の木には仁王は埋まっていなかった。

★11.動物の像。

『三国史記』巻4「新羅本紀」第4・第22代智證麻立干13年  于山国は別名を鬱陵島といい、海上はるかな島であることを頼みにして、新羅に服属しなかった。そこで新羅の軍師が、多くの木製の獅子像を各戦船に載せ、海岸に押し寄せて、「服従しないと、この猛獣を島に放つぞ」と脅した。これを聞いた于山国の人々は、恐れて降伏した。

『十訓抄』第7−26  秦の恵王が石牛を作り、尻の下に金(きん)を置いて、蜀の国境近くに運ばせた。蜀の人は「金の糞をする牛だ」と思い、国境の山を掘り崩し、平らな道にして、石牛を国内へ運び入れた。秦軍は、その道を通って蜀に攻め入り、滅ぼした〔*→〔木馬〕2の『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第5章の、トロイの木馬の物語に類似する〕。 

★12.人間が像のふりをする。

『怪人二十面相』(江戸川乱歩)「荘二君のゆくえ」〜「おとしあな」  実業家羽柴壮太郎が所蔵する、鎌倉時代作の国宝級の観世音像をいただきたい、と怪人二十面相が要求する。明智小五郎の助手で、十二〜三歳になる小林芳雄少年が、観世音像と同じくらいの背格好であるので、全身を黒く塗って観世音像になりすます。小林少年は二十面相にピストルをつきつけて捕らえようとするが、地下室に落とされる。

『冬物語』(シェイクスピア)  リオンティーズ王が、妃ハーマイオニの貞節を疑い、彼女を投獄する。やがて妃の死の知らせがとどき、王は、妃への仕打ちを悔いる。二十年後、妃そっくりに彫刻された立像を、王は見せられる。王は驚き、立像に接吻しようとするが、その立像は、本物の妃ハーマイオニその人であった。

 

 

【葬儀】

 *関連項目→〔火葬〕〔土葬〕

★1.通夜から告別式・火葬までのさまざまな手続き。

『お葬式』(伊丹十三)  中年男の佗助(演ずるのは山崎努)は、妻(宮本信子)とともに俳優として東京で働いている。妻の父が急逝し、通夜・告別式を伊豆の別荘で行なうこととなる。初めての経験で、僧侶に渡す香典の額も相場がわからず、葬儀屋に教えてもらわねばならない。集まった親族の中には、納棺等の手順にあれこれ口をはさむ者がいる。佗助の愛人が「葬儀の手伝い」と称して現われたので、やむなく佗助は裏の林へ入って、立位で愛人と交わる。いろいろ大変な思いをしながら、どうやらこうやら葬儀万端を無事に済ませ、佗助夫婦は火葬の煙を感慨深く眺めた。

★2.葬儀の焼香。

『信長公記』(太田牛一)首巻  織田信長が十代後半の頃、父信秀が病死した。葬儀の席に現れた信長は、茶せん髪に結い、大刀・脇差を縄で巻き、袴なしの姿であった。彼は仏前に進むと、抹香をわしづかみにして投げかけ、帰って行った(弟信行は肩衣に袴姿で、礼儀正しくふるまった)。参列者たちは信長を「大うつけ」と嘲った。ただ、筑紫から来た客僧一人が、「あれこそ国を持つ人よ」と言った。 

『太陽の季節』(石原慎太郎)  英子は竜哉の子を妊娠し、中絶手術に失敗して死んだ。葬式に出かけた竜哉は、焼香しようとして、英子の遺影を見る。彼女の笑顔の中にある挑むような眼差しを見て、竜哉は知った。英子は死ぬことによって、一番残酷な復讐を竜哉にしたのだ。竜哉は香炉を写真に叩きつけ、「馬鹿野郎っ!」と叫ぶ。驚く参列者たちに、「貴方達には何もわかりゃしないんだ」と言い捨てて、竜哉は出て行った。

★3.通夜や葬儀の場に、死者と瓜二つの人がやって来る。

『狗張子』(釈了意)巻2−2「死して二人となること」  ある男が病死した時、死者と瓜二つの男がやって来て、死者の枕頭に坐して泣いた。すると死者が起き上がり、男とつかみ合い殴り合った。やがて二人はともに倒れ、どちらがどちらとも見分けがつかなかったので、同じ塚に埋められた〔*→〔自己視〕2aの『夢を食うもの』(小泉八雲)と類似する〕。  

『古事記』上巻  天若日子が死んだ時、友人の阿遅志貴高日子根(アヂシキタカヒコネ)が弔いに来た。二人はよく似ていたので、遺族は「天若日子は生きていたのだ」と喜んで、彼に取りすがった。阿遅志貴高日子根は、「私は親友だから弔いに来たのだ。それなのに穢(きたな)い死人と間違えるとは」と怒り、喪屋を破壊して天に飛び去った〔*『日本書紀』巻2神代下・第9段本文・一書第1に類話〕。

★4.通夜の家に雨宿りする無法者たち。

『通夜』(つげ義春)  三人の盗賊が、一軒家に雨宿りを請う。老婆が「今、倅(せがれ)が死んだばかりじゃ」と言って断るが、三人は強引に上がり込む。彼らは退屈しのぎに、死体の足の裏や脇の下をくすぐり、さらに死体を蒲団から引きずり出し、抱いて踊る。やがて雨があがり、三人は家から出て行く。彼らは「愉快だったなあ」「あの死体め。必死だったぞ」「ババァめ。つまらぬ嘘をつくからさ」と笑い合う。

★5.葬列から子供を守る。

『金枝篇』(初版)第2章第2節  ビルマのカレン族は、葬列が家の傍を通り過ぎる時には、子供たちを特殊な紐で家の特定の場所に縛りつける。子供たちの魂が身体を離れて、葬列の遺体に入らないようにするためである。遺体が見えなくなるまで、子供たちは縛られたままでいる。

★6.陽気な葬儀。

『夢』(黒澤明)第8話「水車のある村」  「私」(演ずるのは寺尾聰)は水車の回る村を訪れ、百三歳の老人(笠智衆)から話を聞く。老人の初恋の女性が九十九歳で死に、今日は葬式だ。「よく生きてよく働いて、『ご苦労さん』と言われて死ぬのはめでたい」と老人は語る。その一方で、「生きるのは苦しいとか何とか言うけれど、それは人間の気取りでね。生きてるのはいいもんだよ」とも言う。男たちが棺をかついで、葬式の行列がやって来る。年配の男女が楽器をにぎやかに演奏し、若い娘たちが笑顔で踊る。子供たちが花びらをまく。

 

※通夜に眠ってはいけない→〔不眠〕4の『金枝篇』(初版)第2章第2節。

 

 

【装身具】

★1a.姦通の証拠となる装身具。性交の際、装身具をはずす・忘れるなどして、それが夫などの手に入る。

『鸚鵡七十話』第24話  グナガウラヴァの妻アナンガセーナーが情夫と寝た時、足環が音を立てたので、彼女は足環をはずす。舅がこれを見て、不義の証拠に足環を持ち去る。アナンガセーナーは夫グナガウラヴァに「先日お父様が足環を取った」と訴え、夫は「父はお前が気に入らないんだ」と言う。翌朝、舅が、嫁の不義の証拠として足環を示すが、グナガウラヴァは父の言葉を信じない。

『カター・サリット・サーガラ』「ナラヴァーハナダッタ王子の誕生」1・挿話1  デーヴァダッタ王子は商人の娘を妻とする。妻が実家に帰っている間に政変が起き、王子は身をやつして亡命する。その途中、王子は妻と出会うが、妻は気づかず、慈善院の男と姦通し、激しく抱き合ったため耳飾りを落とす。王子は耳飾りを拾って舅に送り届ける。妻は不行跡がばれたと知り、恥じて死ぬ。

『日本書紀』巻12履中天皇即位前紀(A.D.399)  住吉仲皇子(すみのえのなかつみこ)が、履中天皇の名をかたって黒媛のもとへ行き、犯す。その夜、仲皇子は手に巻いていた鈴を忘れて帰った。翌晩、履中天皇本人が黒媛を訪れ、床(とこ)で音をたてた鈴を怪しむ。黒媛が「昨夜、貴方が持っておられた鈴です」と言うので、履中天皇は仲皇子の悪事を知る。

*腕につけた鈴を女に与える→〔豚〕1の『捜神記』巻18−18(通巻430話)。

★1b.姦通の証拠となる装身具。夫が妻に贈った装身具を、妻が愛人に与える。

『三銃士』(デュマ)  ルイ十三世が妃アンヌの誕生祝に贈ったダイヤの胸飾りを、アンヌは愛人バッキンガム公に与える。ルイ十三世は、舞踏会に胸飾りをつけて出るようアンヌに命ずるので、ダルタニャンがロンドンのバッキンガム公の所へ胸飾りを取りに行く。しかし枢機卿の配下ミレディが、アンヌを陥れるべく、十二あったダイヤのうち二個を盗んでしまう。バッキンガム公は、そっくりのダイヤ二個を細工師に作らせ、アンヌは十二のダイヤが輝く胸飾りをつけて舞踏会に出、窮地を脱する。

★2.装身具が悪事の証拠となる。

『日本書紀』巻14雄略天皇14年(A.D.470)4月  雄略天皇(大泊瀬皇子)が根使主(ねのおみ)を引見した時、皇后(幡梭皇女。はたびのひめみこ)は根使主の髪飾りを見て、「あれは昔、亡き兄が安康天皇に奉ったはずの押木珠縵(おしきのたまかづら)だ。それゆえ、根使主に疑いを抱いてしまった」と言って泣く。雄略天皇は事情をただし、十四年前に根使主が犯した悪事を知った→〔仲介者〕3

★3.装身具が、異郷の人と会った証拠になる。

『狗張子』(釈了意)巻1−6「北条甚五郎出家、附冥途物語のこと」  長尾謙信の家老である北条丹後守の弟・甚五郎が、二十余歳で病死した。しかし「まだ寿命がある」というので、現世へ戻されることになった。その途中、甚五郎は、戦死した傍輩長七から「父母に我が供養を請うてくれ」と頼まれ、「私と会った証拠に」と簪(かんざし)を託される。蘇生した甚五郎が長七の父母に簪を届けると、長七の父母は、「息子の棺に納めた簪だ」と言って泣いた。

『長恨伝』(陳鴻)  玄宗皇帝の命令を受けて、方士が魂を遠方へ飛ばし、東海の蓬壺(=蓬莱)の島で楊貴妃の亡魂と対面する。楊貴妃は、金のかんざしと小箱をそれぞれ半分に割って方士に渡し、玄宗皇帝への言伝(ことづて)をする。方士は現世へ帰り、楊貴妃に会った証拠として、金のかんざしと小箱を玄宗皇帝に渡し、彼女の言葉を伝える。

『ラーマーヤナ』第5巻「優美の巻」第65〜66章  猿のハヌマト(ハヌーマン)がランカー島へ飛んで、ラーマの妃シーターと対面する。ハヌマトは、ラーマに復命するに際して、確かにシーターに会ったことを示す証拠の品を請い、シーターは髪飾りの宝石をハヌマトに託す。ラーマは「これは結婚式の時、シーターの父ジャナカ王が彼女に与えた宝石だ」と言って泣く。

★4.矢を防ぐ装身具。

『ピーター・パン』(バリ)5〜6  ウェンディは、ネバーランドの島の上空でピーター・パンとはぐれ、泣きながら空を飛んでいた。妖精ティンカー・ベルが、ネバーランドの子供たち(トゥートルズはじめ六人の男の子)に、「ウェンディを射落とせ」と言う。トゥートルズが放った矢を胸に受けて、ウェンディは地面に落ちる。ウェンディは、ピーターからもらったどんぐりの実をペンダントにしており、矢はペンダントに当たったので彼女は無事だった。

*矢をはね返す『観音経』→〔経〕1の『太平記』巻3「赤坂の城戦の事」。 

*銃弾を防ぐ一枚の銀貨→〔硬貨〕2aの『荒野の1ドル銀貨』(パジェット)。 

 

 

【底なし】

 *関連項目→〔無尽蔵〕 

★1.いくらでも物を棄てられる底なしの穴。

『おーい でてこーい』(星新一『ボッコちゃん』)  底なしの穴が見つかり、一人が「おーい、でてこーい」と呼びかけて、小石を投げ入れる。ついで皆がさまざまなゴミ類を投げこみ、都市の汚染問題は解決する。年月がたち、ある日空から「おーい、でてこーい」という声が聞こえ、小石が一つ落ちてくる。

★2.いくらでも金貨が入る底なしの靴。

『土(ど)まんじゅう』(グリム)KHM195  悪魔が、死者の魂を取ろうと墓地へ来る。百姓と兵隊が土まんじゅうの夜番をしており、「長靴の片方いっぱいに金貨を詰めてくれるなら、死体を渡そう」と言う。長靴は底が抜いてあり、しかも穴の上に置いてあったので、悪魔がいくら金貨を入れても筒抜けで、長靴は空っぽのままだった。悪魔は何度も金貨の袋を持って来るが、そのうちに夜が明け、悪魔は逃げて行った。

*器にいくら油を入れてもいっぱいにならない→〔墓〕6の『ギリシア奇談集』(アイリアノス)巻13−3。

★3.いくらでもインクが入る底なしの万年筆。

『SR(ショート落語)(桂枝雀)  ○「この万年筆、けったいな万年筆やなぁ。吸入式やけど、なんぼでもインクが入るね。こいでインクびん十本目や」 ×「見てみ。あいつ真っ青になってる」。

★4.いくらでも食べられる底なしの胃袋。

『宇治拾遺物語』巻2−1  清徳聖(ひじり)は、三町(一万坪余り)の面積に植えた水葱(なぎ)や、白米一石(いっこく)の飯を、一時に食べ尽くした。これを聞いた坊城の右の大殿(右大臣藤原師輔)が、清徳聖を邸へ招くと、聖の後ろに続いて、餓鬼・畜生・虎・狼・犬・烏などが幾千万も歩いて来る。師輔だけがこれを見て、他の人の目にはまったく見えなかった。白米十石の飯が与えられ、餓鬼・畜生などがこれをむさぼり食ったが、人々の目には、聖が一人で全部食べてしまったように見えた。

*人の後ろに、多くの鬼がついて来たり、多くの神がついて来たりする→〔百鬼夜行〕2の『剪燈新話』巻1「三山福地志」。

*鬼が僧にとりついて、肉を食う→〔憑依〕6cの『正法眼蔵随聞記』第1−3。

★5.杯の底が海へ通じている。

『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)(スノリ)第46〜47章  ウートガルザ=ロキ王の巨人国を訪れたトールは、角杯の酒を飲み干すように求められ、息の続く限り飲んだが、酒はほとんど減らなかった。二度目、三度目と試みて、ようやく酒がいくらか減ったので、トールは角杯を置いた。実は角杯の底は、海へ通じていたのだった。

*他郷へ通じている釜→〔釜〕1の『ケルトの神話』(井村君江)「かゆ好きの神ダグザ」。

★6.底のない壺。

『壺買い』(日本の昔話)  吉四六(きっちょむ)さんが、梅干を入れる壺を買おうと、瀬戸物屋へ行く。壺が伏せて並べてあるので、吉四六さんは「口がないから、梅干を入れることができない」と文句を言い、壺をひっくり返して、「底も抜けている」と驚く(大分県直入郡)。

★7.底を抜いた柄杓(ひしゃく)。

舟幽霊(水木しげる『カラー版妖怪画談』)  夜の海を行く舟に、幽霊たちが寄って来て「柄杓を貸せ」と言う。この時、柄杓をそのまま貸すと、幽霊は海水をどんどん汲んで舟の中に入れ、舟を沈めてしまう。だから、柄杓の底を抜いて、渡さねばならない。幽霊たちが底抜けの柄杓で水を汲もうとしているうちに、舟は全速力で逃げるのだ。

 

 

【蘇生】

★1.神または神に等しい人が蘇生する。

『古事記』上巻  オホナムヂ(大国主命)は、八十神(やそかみ)たちにだまされ焼き殺された(*→〔猪〕5)。母神が高天原へ昇り、タカミムスヒに救いを請う。タカミムスヒはキサガヒ(赤貝)ヒメとウムギ(蛤)ヒメを派遣し、この二女神の治療で、オホナムヂは蘇生する。その後、八十神はオホナムヂを木の割れ目に入れて、挟み殺す。母神が木を裂いてオホナムヂを助け出し、生き返らせる。

『封神演義』第13〜14回  ナタ(ナタク)は七歳の時、太乙真人の命令で自らを刀で解体して死んだ。太乙真人は、数百年かけて煉った金丹を用いてナタの魂魄を蓮葉に導入し、「人形(ジンケイ)を成せ」と声をかけてナタを再生させた。

『ルカによる福音書』第24章  イエスはガリラヤにいた頃、「人の子は必ず、罪びとの手に渡され、十字架につけられて、三日目に復活することになっている」と、弟子たちに語った。その言葉どおり、イエスは処刑後三日して復活し、弟子たちの前に現れた。

★2.人間が生き返る・人間を生き返らせる。

『今昔物語集』巻12−37  伝染病で父母が死んだので、僧信誓は『法華経』を唱えて祈る。彼は「助命しよう」との閻魔王の手紙を夢に見て、父母は生き返った。

『三宝絵詞』上−13  親に孝行をつくす施無は、誤って弓で射られて死んだ。帝釈が天眼でこれを見て、天の薬を施無の口にそそいだ。すると矢が抜けて、施無は生き返った。

『南総里見八犬伝』第9輯巻之42上第170回  扇谷定正・山内顕定両管領軍と里見家の合戦で、多くの死傷者がでた。犬江親兵衛は、伏姫神授の仙丹を敵味方の区別なく与え、死者たちを蘇生させた。

『日本霊異記』下−30  老僧観規は十一面観音像を彫りかけたまま、延暦元年(782)二月十一日に死んだ。しかし二日後に蘇生し、像の完成を人に託して、さらに二日後の二月十五日、「今日は仏涅槃の日ゆえ、私も今日死のう」と言い、その通り死んだ。

『まっしろ白鳥』(グリム)KHM46  多くの美しい娘が、魔法使いの男にさらわれて殺された。三人姉妹の長女と次女も、身体を切り刻まれ殺された。末娘が、姉たちのバラバラの頭・胴体・手足をくっつけて、蘇生させた。

*浄蔵が一条戻り橋で父の葬列に出会い、諸仏に祈って父を蘇生させた→〔橋の上の出会い〕1の『三国伝記』巻6−9。

*半牛半人で蘇生する→〔半牛半人〕3の『日本霊異記』下−26。

★3.生者が死者とともに寝ることによって、蘇生させる方法がある。

『捜神記』巻1−26  呉猛は仙人から神術を学んだ。西安知事の于慶が死んで三日後、呉猛は「于慶の命数はまだ尽きていないから天に訴えよう」と言い、亡骸のかたわらに寝て、数日後に于慶を呼び起こし、いっしょに立ち上がった。

『太平広記』巻26所収『紀聞』  ケイ仙人は、死んで二晩たった友人の死体を寝台に置き、自分も着物を脱いでいっしょに寝た。熟睡した後、湯を飲ませると、やがて友人は生き返った。

『列王紀』下・第4章  ある家の男児が急病で死んだ。神の人エリシャが、寝台に横たわる男児の上に伏し、自分の口を男児の口に、目を男児の目に、手を男児の手に重ね合わせて、かがみこんだ。男児の身体は温かくなり、生き返った。

★4a.男が、死んだ女を蘇生させ、結婚する。

『捜神記』巻15−1(通巻359話)  王道平が長期の出征中に、彼の婚約者である娘が、親の手で無理やり他家へ嫁がせられた。娘は怨み嘆いて、病死した。帰還した王道平が墓の前で泣くと、娘の霊が、墓を掘り起こし棺を壊すように教える。王道平は墓を開いて娘の身体をさすり、蘇生させる。二人は結婚し、娘は百三十歳まで生きた〔*巻15−2(通巻360話)も同様の物語〕。

『播磨国風土記』餝磨の郡美濃の里  美濃の里継の潮(ツギノミナト)に一人の死んだ女がいた。筑紫国の火君らの祖がやって来たところ、女が生き返った。そこで結婚した。

『聊斎志異』巻3−97「連瑣」  楊于畏は、死者の霊である娘と交際する。娘は煮炊きした物を食するうち、白骨に生気が蘇る。ついには楊と交わり精を受け、さらに彼の血を一滴臍中に受けて、娘は生きた肉体を得て蘇生する。

『聊斎志異』巻5−194「伍秋月」  王鼎は、死後三十年を経た霊である伍秋月と、夫婦になった。王鼎は伍秋月の遺骸の背に護符を貼り、毎日彼女の名を呼び、夜は抱いて寝る。伍秋月は三日目に蘇生し、七日目に歩いた。

★4b.男が、死んだ女を一時的に蘇生させるだけで、結婚はできない。

『好色一代男』巻4「形見の水櫛」  世之介は入牢中に知り合った人妻と駆け落ちしようとするが、人妻は実家の男たちに連れ去られた。一週間ほど後、世之介は夜の墓場で、百姓二人が棺桶を掘り出すのを見る(*→〔髪(女の)〕6)。棺桶の中の死体は、捜していた人妻だったので、世之介は涙にくれる。人妻は両眼を見開き、にっこり笑って、またもとの死体にもどった。

★5.蘇生あるいは転生。

『ブッダ』(手塚治虫)第3部第9章「スジャータ」  死に行く少女スジャータの魂をシッダルタが追いかけるが(*→〔生命〕1)、彼女の魂は、宇宙の大生命の中に溶け込んでしまった。ブラフマンが現れて、シッダルタに教える。「あたりを飛び回っている無数の生命のかけらを、どれでもいいから連れて行けば、スジャータは生き返る。いや、生まれ変わるといった方がよいかな。そこらのかっこいいのを、一つ選んで連れて行きなさい。動物も植物も人間も、生命(いのち)はみんな同じじゃよ」。シッダルタは生命のかけらを一つ持ち帰り、スジャータの肉体に入れて蘇生させる。

★6.動物を生き返らせる。

『今昔物語集』巻10−28  震旦の国王が百官を率いて入江へ釣りに行き、多くの魚を料理して食べようとする。その時、一丈余の人面魚が水面に現れて、殺生を非難する。王が恐れて、膾にした魚を水中に捨てると、魚は皆生き返った。

『三宝絵詞』中−3  人々が池で取った魚の膾を、無理やり行基菩薩に勧める。行基が膾を口に入れ吐き出すと、ことごとく小魚となってまた池に入った〔*『今昔物語集』巻11−2に類話〕。

 

※枯れた木、杖となった木を蘇生させる→〔木〕7の『花咲か爺』(日本の昔話)、→〔杖〕1aの『宇治拾遺物語』巻8−5など。

※血の力で蘇生する→〔血の力〕4の『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第10章など。

※涙の力で蘇生する→〔涙〕2の『浄瑠璃十二段草紙』第12段など。

 

 

【蘇生者の言葉】

★1.蘇生して、「ここは自分の家ではない」と言う人。

『聴耳草紙』(佐々木喜善)110番「生返った男」  死後二〜三日して蘇生した若者が、「ここは俺の家でない。俺は某村の某家の者だ」と言う。某家の伜も二〜三日前に死んだのだが、火葬にしたため、この世に戻れることになっても身体がない。そこで彼の魂は、土葬された若者の亡骸を借りて、蘇生したのだった。若者は某家に引き取られ、二年ほど生きて死んだ。

*遺体が火葬されたので、他人の身体を得て蘇生した人→〔火葬〕1の『天国から来たチャンピオン』(ヘンリー)、→〔火葬〕2の『伊勢や日向の物語』など。

『酉陽雑俎』続集巻3−922  開元(713〜741)の末、蔡州の百姓張弘義は、死んでから一晩たって生き返った。彼は父母妻子を「知らない人だ」と言い、「自分は隣村の李簡という者だ」と名のる。李簡は十余日前に冥府に召されたが、間違いであることがわかり、現世へ戻れることになった。しかし彼の身体はいたんでいて使えないので、張弘義の身体を得てよみがえったのである〔*当時、「私(『酉陽雑俎』の著者・段成式)」の三従叔父は蔡州にいて、直接にこの事件を見聞した〕。

*「わたしの父母は、あなた方ではない」と言う赤ん坊→〔赤ん坊がしゃべる〕3の『和漢三才図会』巻第8・人倫親族「ふたご」。

★2.蘇生して、冥府のさまを語る人。

『歌占』(能)  伊勢の神職渡会の家次は、諸国一見の旅の途中、頓死して三日後に蘇生した。彼はまだ若かったが、その時から総白髪になってしまった。彼は歌占いをする男巫となり、不思議な縁で巡り合った息子に、剣樹地獄・石割地獄・火盆地獄など、さまざまな地獄の苦のありさまを、曲舞(くせまい)で見せた→〔占い〕4

『江談抄』第3−33  公忠の弁は頓死したが三日後に蘇生し、参内して延喜の帝(醍醐天皇)に謁した。公忠は「私は死んで閻魔の庁へ行きました。そこで二人の人物(菅原道真と小野篁と思われる)から帝を批判する言葉を聞き、改元を示唆されました」と奏上する。帝はただちに「延喜(901〜923)」から「延長(923〜931)」へ改元した。

『捜神記』巻6−45(通巻146話)  漢の元始元年(A.D.1)、趙春という娘が病死して七日後に棺から出て来て、「亡父に会い、お前の寿命は二十七歳だ、まだ死ぬ時期ではない、と言われた」と語った。

『捜神記』巻15−4(通巻362話)  李娥は六十歳で死に、十四日後に蘇生した。冥府へ行ったが人違いであるとわかってすぐ帰されることになり、途中、従兄の伯文から現世の息子への手紙を預かって来た、と彼女は語った。

『日本霊異記』上−5  推古天皇三十三年(625)、大部屋栖野古(おほとものやすのこ)は死んだが、遺体から良い香りがし、死後三日して蘇生した。彼は妻子に語った。「五色の雲が虹の橋のように北へかかっていた。雲の果てに黄金の山があり、聖徳太子が立っておられた。私は太子から未来の予言を聞いた」。大部屋栖野古は蘇生後、長寿を保ち九十余歳に達した。

『日本霊異記』中−7  行基を妬み謗った僧智光は、死んで地獄に落ち、鉄や銅の熱柱を抱かせられ、身体を焼かれた。彼は九日後に蘇生して、地獄での体験を述べ、行基に懺悔した〔*『今昔物語集』巻11−2の異伝では、十日を経て蘇生する〕。

『日本霊異記』中−16  讃岐の富者綾君の召使いは、死後七日たって蘇生し、冥界で一本角の獄卒に斬られそうになったことを語った。その時、生前に放生した牡蠣十個の化身である僧俗十人が現れ、護ってくれたのだという〔*『今昔物語集』巻20−17に類話〕。

『日本霊異記』中−19  利苅の優婆夷は就寝中に頓死し、閻羅(閻魔)王宮へ行った。閻羅王が、彼女の『般若心経』読誦を聞くために呼んだのだった。読誦を聞いて閻羅王は随喜し、三日過ぎて彼女を現世へ帰してくれた〔*『今昔物語集』巻14−31に類話〕。

『日本霊異記』下−37  平城京の人が筑前へ下り、病を得て死んだ。彼は閻羅王宮へ行き、従四位上佐伯宿禰伊太知が生前の罪により打たれて苦しむ声を聞いた。平城京の人は蘇生して後、このことを太宰府に報告した。

『パンタグリュエル物語』第二之書(ラブレー)第30章  戦死したエピステモンを、パニュルジュが蘇生させる。エピステモンは、「冥府で悪魔や堕天使リュシフェルに会った」と言い、「冥府では、アレクサンデルやクセルクセスなどの王は、みじめな賤しい生活をしていた。ディオゲネスやエピクテトスなどの哲人は、大した身分の旦那方になっていた」と語った。 

「冥府で見たことを人間たちに報告せよ」と命ぜられる→〔死体変相〕3cの『国家』(プラトン)第10巻。

*地獄の責め苦から救われたことを語る→〔地獄〕2の『今昔物語集』巻17−19。

*三井寺の僧・興義は、蘇生後「自分は魚になっていた」と語った→〔魚〕2の『雨月物語』「夢応の鯉魚」。

 

 

【空飛ぶ円盤】

★1.地球人が空飛ぶ円盤に乗って、宇宙人から教えを受ける。

『驚異の大母船内部』(アダムスキー)  一九五三年二月十八日の深夜、ロサンゼルスのホテルにいた「私(ジョージ・アダムスキー)」の所へ、火星人と土星人(二人とも外見は地球人男性)が訪れ、「私」たちは一緒に砂漠地帯へ出かけた。旧知の金星人(*→〔宇宙人〕3の『空飛ぶ円盤は着陸した』)が出迎えてくれ、「私」たちは小型円盤から巨大な母船に乗り移り、大気圏外へ出る。高度八万キロから見下ろすと、地球は白い光を放っていた。指導者(マスター)から宇宙哲学の講義を聞き、「私」は地上へ送り返された〔*その後「私」は、土星人の円盤や母船にも乗った〕。

*宇宙の高みから下界を見下ろすと、青く見える→〔国見〕7bの『仙境異聞』(平田篤胤)下「仙童寅吉物語」2など。

★2.UFOが地球人を誘拐する。

『スローターハウス5』(ヴォネガット)  一九六七年、四十五歳のビリーは、UFOによって誘拐され、トラルファマドール星へ運ばれた。ビリーは動物園の檻に入れられ、地球人の女優モンタナをあてがわれて、何年か暮らした後に、地球へ戻された。トラルファマドール星人は時間の歪みを用いてビリーを誘拐したので、地球人からは、ビリーはただの一秒も地球を離れなかったように見えた→〔未来記〕8

UFOに誘拐されて(ブレードニヒ『ヨーロッパの現代伝説 悪魔のほくろ』)  一九六二年二月のある晩、十六歳の少年が、東独シュテンダル近郊の小さな湖でスケートをしていた。突然、月の左わきに光が見え、湖の上へ降りて来る。少年は好奇心にかられ、七色に輝く発光体めがけて走って行き、意識を失った。しばらく後、両親が、湖の氷の上に横たわる少年を発見した。少年は「UFOに誘拐され、身体を検査された」と語った→〔催眠術〕9。 

★3.地球人が空飛ぶ円盤を造り、世界各地に飛ばせる。

『宇宙怪人』(江戸川乱歩)  怪人四十面相(*→〔顔〕9の『怪奇四十面相』)と外国の悪人仲間たちが、香港で会議を開き(*→〔戦争〕6)、相談して、世界各地に空飛ぶ円盤を飛ばせる。アメリカの仲間は金持ちだから、無線操縦で円盤を飛ばせた。資金がない四十面相は、薄い紙で大きな円盤を作り、絹糸で伝書鳩の足にくくりつけて飛ばせた。

★4.回復すべき全体性の象徴が円形であり、その円形を空に幻視したものが、空飛ぶ円盤である。

『ユング自伝』12「晩年の思想」  神のイメージは、人間の心の基礎が表明されたものである。神の全体性の分裂(光の領域と闇の領域の出現)が深まった現代において、その補償が生じてきた。この過程は、普遍的無意識の中で生じるので、それ自身をあらゆる所に表明(投影)する。それは、心の中の対立(分裂)の統合を示す、円形の象徴の形をとるのである。一九四五年以来、世界中に拡がっている空飛ぶ円盤の話は、この証拠だ。

*曼荼羅も円形→〔曼荼羅〕3の『ユング自伝』6「無意識との対決」。

★5.空飛ぶ円盤の夢。

『ユング自伝』11「死後の生命」  一九五八年十月に、「私(ユング)」はUFOの夢を見た。レンズ形で金属的な輝きをした円盤が二つ、湖の方へ飛んで行った。「私」の方へ飛んで来て、六〜七十メートルの距離に静止した円盤もあった。それは、魔法の幻灯箱につながったレンズであった。「私」は悟った。われわれの投影が円盤なのではなく、彼ら(円盤)の投影がわれわれなのだ。「私」は魔法の幻灯箱から「ユング」として投影されている。では、誰がその器械を操作しているのか?

*「私(ユング)」は、ヨガ行者の夢の中の存在にすぎない→〔夢〕4

 

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