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【こだま】

★1.自分の声のこだまを、敵だと思う。

『パンチャタントラ』第1巻第8話  獅子王が、「井戸の中にもう一頭獅子がいる」と、兎から聞かされる。獅子王は井戸をのぞき、水に映る自分の姿を見て獅子吼(ししく)を放つ。その声は反響(こだま)して、井戸の中に二倍の響きが起こった。獅子王は、それを敵の声だと思って中へ飛び込み、死んでしまった〔*『鸚鵡七十話』第40話に類話〕。

★2.自分の声のこだまで、死んでしまう。

『こだまが丘』(ブラウン)  小悪党ラリー・スネルは、不思議な力を授かった。彼の発する言葉に、すべて他人が従うようになったのだ。彼は、この力で何ができるか一人でじっくり考えるために、小高い丘に登る。「この力を使えば、世界を支配できる」と、彼は夢想する。さからうやつには、こう言ってやればいい。彼は大声で叫ぶ。「くたばってしまえ!」。翌日、「こだまが丘」の上で、ラリー・スネルの死体が発見された。

★3.自分の声のこだまを喜ぶ。

『愚痴中将』(御伽草子)  頭の中将の息子に、三位中将という「ほれ人(愚か者)」がいた。母から「男女の情けの道を知り給え」と諭(さと)され、中将は乳母子の中太を連れて山中へ行き、二人で「あら、人恋しや。いかならむ女房も参れかし」と叫ぶ。すると山彦が返ったので、中将は「このこだま(木霊)は情けを知っているのだろうか。あら、優しや」と誉めた。

『東洋更紗』(稲垣足穂)3「黄帝と谷」  黄帝は山の上から、紫色に煙る底の方へ声をかけた。すると下からも、同じ声が黄帝に向かってかけられた。黄帝は幾回も、同じことを繰り返した。黄帝は宮殿へ帰ってから一言も口を利かなかったが、三日目に、家来に向かって云った。「谷というものは、いいものだ」。

★4.雄略天皇と出会った一言主の神の物語は、「こだま(やまびこ)現象」と解釈されることがある。

『古事記』下巻  雄略天皇が百官を率いて葛城山へ登った時、向かいの山に、人数も服装もそっくりな一団が現れた。天皇は遠望して、供の者に「この倭(やまと)の国に、吾を除(お)きてまた王(きみ)は無きを、今誰人ぞかくて行く」と問わせた。すると向こうからも、まったく同じ言葉が返って来た〔*向かいの山の人は「一言主の神である」と名のった〕。

 

※自分が「声に出して言った言葉」ではなく、「心の中で思っていること」と同じことを相手が言えば、それは『さとりの化け物』である→〔悟り〕5

 

 

【琴】

★1.琴は神を招く道具である。

『古事記』中巻  仲哀天皇が熊曽を討とうとして、筑紫の香椎宮で神託を請う。闇の中で天皇が琴を弾くと、神が后(神功皇后)に乗り移って、「西方に国があり、種々の珍宝が多い。その国を帰服させよう」と告げる。しかし仲哀天皇は「高い所に登って西方を見ても、大海があるだけだ。いつわりをする神だ」と言い、琴を弾くのをやめる→〔神がかり〕2

*→〔国見〕3の『日本書紀』巻8仲哀天皇8年9月に類話。

★2.琴の奇瑞。

『うつほ物語』  天女が俊蔭に名琴南風・波斯風を与えた。南風・波斯風は、さまざまな不思議を起こした。俊蔭女が南風を弾くと山が崩れ、恐ろしい武士たち四〜五百人が埋もれ死んだ(「俊蔭」)。紅葉の賀の夜、俊蔭女の子・仲忠が南風を弾くと天変が起こり、天女が降りて舞った(「吹上」下)。七夕の夜、尚侍(ないしのかみ)となった俊蔭女が波斯風を弾くと天変が起こり、夢に父俊蔭の霊が現れた。八月十五夜に尚侍が南風および波斯風を弾くと、さまざまな天変とともに、大地が揺れ池水が溢れた(「楼の上」下)。

『ケルトの神話』(井村君江)「かゆ好きの神ダグザ」  ダーナ神族の一人ダグザは、竪琴を奏(かな)でて四季や天候を変えた。楽しい調べにつれて春が訪れ、悲しく強い調べとともに嵐が起きた。竪琴の三本の弦は、一本目は眠りの弦、二本目は笑いの弦、三本目は涙の弦で、ダグザは人々を自在に笑わせ、泣かせ、眠らせた。

『サムエル記』上・第16章  サウル王は神の心に背いたため、神から来る悪霊にしばしば苦しめられた。羊飼いの少年ダビデが召し出され、サウル王の傍らで竪琴をかなでた。すると悪霊はサウル王から離れ、サウル王は気分が良くなった。

『列子』「湯問」第5  琴の名手師文が、春の季節に秋の曲を弾くと、涼風が吹き草木が実を結ぶ。秋に春の曲を弾くと、温風が吹き草木に花が咲く。夏に冬の曲を弾くと、霜雪が降り川も池も凍る。冬に夏の曲を弾くと、太陽が照り氷が溶ける。四季の弦を一度にかなでると、南風が吹き瑞雲が起こり、甘露が降り泉が湧く。

★3a.心乱れれば琴も乱れる。

『三国志演義』第95回  僅かの兵しかいない城に、司馬仲達の魏軍が攻め寄せる。諸葛孔明は城門を開き、櫓上で平然と琴を弾く。これを見た司馬仲達は、「伏兵があるのであろう」と恐れて、退却する。

『壇浦兜軍記』3段目「琴責め」  「平家の残党・悪七兵衛景清を捜し出せ」との鎌倉幕府の命令を受け、畠山重忠が景清の愛人・遊君阿古屋を尋問する。阿古屋は「景清の行方など知らぬ」と言うので、重忠は彼女に琴を弾かせる。心に偽りがあれば、その音色が乱れるからである。しかし阿古屋の琴には、少しの乱れもなかった〔*重忠は、さらに三味線と胡弓を弾かせた後、「阿古屋の言葉に偽りなし」として彼女を釈放する〕。

★3b.琴の音で異変を知る。

『封神演義』第18回  殷の国に幽閉された西伯姫昌が琴を弾き、大弦の音に「殺声」の響きを聞き取って驚く。彼は卦を立てて、息子伯邑考が紂王と妲妃によって殺されたことを知る。

★3c.琴の音を聞いて、悪心から善心に変わる。

『琴の音』(樋口一葉)  孤児である渡辺金吾(十四歳)は、世間の冷たい仕打ちに心すさみ、悪の道へ足を踏み入れそうであった(上)。秋の夜、根岸に住む森江静(十九歳)が、月光のもと、一心に琴を弾いていた。あたりを徘徊する金吾は、天上の楽にも似た琴の音を聞くうちに、ねじけた心を改め、真人間になった(下)。

★4.琴の音が声をかき消す・声が琴の音をかき消す。

『アルゴナウティカ』(アポロニオス)第4歌  コルキス国の金羊皮を手に入れたイアソン一行は、アルゴ船でギリシアへの帰途につく。セイレンたちの住む島に近づくと、彼女たちの歌声が一行を誘い、船は島へ引き寄せられそうになる。オルペウスのかき鳴らす竪琴の音がセイレンたちの歌声を圧倒し、船は無事航海を続ける〔*『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第10章に類話〕。

『変身物語』(オヴィディウス)巻11  オルペウス(オルフェウス)につれなくされた女たちが怒り、杖や石を投げつける。しかしオルペウスの歌声と琴の音によって、杖も石も彼の足もとに落ちた。すると女たちは、楽器を鳴らし叫び声をあげてオルペウスの音楽をかき消し、石・枝・土などを投げて彼を殺した。

★5a.西洋の琴の起源。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第10章  ヘルメスは生まれてすぐ、アポロンの牝牛を盗んだ。それから、草を食う亀を見つけてこれを清め、牝牛のガットを亀の甲羅に張って、竪琴を作り出した〔*『ヘルメスへの讃歌』では、羊からとった7本の弦を張った、と記す〕。

★5b.モンゴルの馬頭琴の起源。

『スーホの白い馬』(モンゴルの民話)  羊飼いの若者スーホの可愛がっていた白馬が、悪い殿様によって殺されてしまった。白馬はスーホの夢に現れ、「わたしの骨・皮・筋・毛を用いて、楽器を作って下さい。そうすれば、わたしはいつもあなたのそばにいて、なぐさめてあげられます」と告げる。夢の教えにしたがって、スーホは馬頭琴を作り、どこへ行く時も持って行った。やがて馬頭琴はモンゴルの草原中に広まり、羊飼いたちは夕方になると集まって、美しい音色に耳をすまし、一日の疲れを忘れるのだった。

★5c.和琴(わごん)の起源。

『無名抄』(鴨長明)  かつては、弓六張を引き鳴らして、神楽に用いていた。それでは手数がかかって面倒だというので、後の人が琴に作り直した。これが和琴の起源だと伝えられている。

★6a.大樹から琴を作る。

『うつほ物語』「俊蔭」  釈迦が成道した日、天稚御子(あめわかみこ)が天から下り、三年かけて谷を掘った。天女が谷に木を植え、長年月を経て、木は天に届くほどに大きくなった。阿修羅がその木を伐っているところへ、日本から清原俊蔭が訪れた。阿修羅が木を割り削り、天稚御子がそこから琴を三十作って、清原俊蔭に与えた。

『茶の本』(岡倉天心)第5章「芸術鑑賞」  昔、龍門の峡谷に一本の桐樹があった。梢は高くそびえて星と語り、根は深く地に下りていた。仙人がこの樹で琴を作り、名人・伯牙だけが、その琴で自在に様々な曲を弾きこなした。伯牙は言う。「私は琴に曲を選ばせた。だから、琴が伯牙か、伯牙が琴か、自分でもわからなかった」。

★6b.船から琴を作る。

『古事記』下巻  仁徳天皇の代、大樹を切って「枯野(からの)」という船を作った。船足が速く、淡路島の清水を運び、難波の高津の宮にある仁徳天皇の飲料として奉った。船が破損した後、船材で塩を焼き、焼け残りの木で琴を作った。琴の音は七里に響き渡った。

『日本書紀』巻10応神天皇31年8月  応神天皇が、老朽の官船「枯野」の名を後世に伝えたいと考え、船材を薪として塩を焼かせた。五百籠の塩が得られたが、焼け残って燃えない薪があった。帝は不思議に思い、その薪で琴を作らせた。琴の音は美しく、遠方まで響いた。

★6c.竹や針金や革紐で琴を作る。

『ビルマの竪琴』(竹山道雄)第1話「うたう部隊」  われわれの部隊はよく合唱をした。工夫していろいろな楽器も作った。いちばんよく使われた楽器は竪琴だ。ビルマの太い竹を共鳴体の胴にして絃を張る。絃は、銅・鉄・またはアルミかジュラルミンの針金で、低い音を出すのは革紐だ。水島上等兵は竪琴の名人で、合唱の伴奏曲をいくつも作って巧みに演奏した→〔僧〕5

★7a.琴の音色を探し求める。

『大般涅槃経』(40巻本「光明遍照高貴徳王菩薩品」)  王が琴の演奏を聞いて、その音色を喜んだ。王は大臣に命じて琴を持って来させ、「琴よ、音を出せ」と言ったが、琴は鳴らなかった。王は音色を求めて、琴の糸を切り、張ってある皮を剥ぎ、木を折り、裂いた。しかし音は出てこなかった。

★7b.琴を肉体、音色を魂にたとえる。

『パイドン』(プラトン)  魂の不死を説くソクラテスに、シミアスが反論する。「竪琴や弦から、和音(調和・ハルモニアー)が生み出される。竪琴を壊し、弦を切ってしまったら、それでも、ハルモニアーは滅びることなく、どこかに存在している、と言えるのだろうか。肉体の諸要素の混合から生ずるハルモニアーが魂ならば、病気などによって肉体の調和が失われれば、魂は死滅せざるを得ない」。

 

 

【言挙げ】

★1.神をないがしろにする言葉を発して、神の怒りをかう。

『あいごの若』(説経)3段目  愛護の若を長谷の観音から授かった折、「この子が三歳になれば、父か母の命を取る」とのお告げがあった。しかし若が十三歳になるまで、父も母も無事であった。母は「神仏も偽りを言う。人々も偽りを言って世を渡れ」と家人らに語る。観音はこれを聞き、母の命を取った。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第4章  エチオピア王ケフェウスの妃カシオペアは自らの美貌を誇り、「私は海のニンフたちよりも美しい」と公言する。ニンフたちの訴えで海神ポセイドンは高潮と怪物を送る。この災いから逃れるためには、王女アンドロメダを怪物の餌食として供えねばならない。

『しんとく丸』(説経)  しんとく丸は、「父母どちらかに命の危険がある」との条件で、清水の観音から授かった子である。しかし、しんとく丸が十三歳になるまで、父母ともに無事であった。母は「仏でさえ嘘を言う。人々も嘘を言え」と家人らに語る。観音はこれを聞き、母の命を取った。

『変身物語』(オヴィディウス)巻6  テーバイの女王ニオベは、七男七女、合計十四人の子宝に恵まれた〔*『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第5章は、十男十女、二男三女、六男六女などの異伝を記す〕。彼女は子沢山を誇り、「女神ラトーナ(レト)は、たった二人の子供しか産まなかった。それでは子が無いのも同然だ。だからラトーナなどよりも、むしろ私を女神として礼拝せよ」と人々に説く。ラトーナは怒り、ニオベの子供たちをすべて殺した→〔石に化す〕1

*ヤマトタケルと伊吹山の白猪→〔猪〕1aの『古事記』中巻。

★2.妖怪・幽霊の類も、侮ることはできない。

『捜神後記』巻7−8(通巻85話)  怪異を信じぬ男が、「住めば必ず死ぬ」という凶宅を買った。しかし何年住んでも平穏無事で、子孫は栄え男は昇進する。男は新任地へ引越すことになり、宴会を開いて「化け物などない。この家は凶宅ではなく、吉宅となった」と演説する。たちまち化け物が現れ、男とその家族を殺した。

『太平広記』巻129所引『冥報志』  無実の罪で殺された男が幽霊となり、自分を死罪にした人々を次々にとり殺す。陳超という者も関係者だったが、幽霊にわびを入れて、寺へ逃げこみ、姓名も改めて無事にすごす。五年後、川べりで宴会の最中に、酔って「もう幽霊などこわくない」と言うと、水中から幽霊が現れ、超を殺した。

★3.言挙げして殺される。

『今昔物語集』巻25−10  平貞道は、駿河国の某を殺すよう依頼されたものの、生返事をして無視していた。後に貞道は偶然、道で某と出会ったが、その時も、貞道に某を害する心はなかった。しかし、某が「我ほどの者を討つことはできまい」と不遜な言を発したため、貞道の心に殺意が生じた。貞道はただちに某を追いかけて射殺した。

『今昔物語集』巻29−20  強盗が家に押し入ったため、明法博士善澄は板敷の下に隠れる。強盗たちが略奪して帰る時になって、善澄は板敷から這い出て、腹立ちまぎれに「顔は皆見た。検非違使に訴える」と叫ぶ。強盗たちは引き返して、善澄を殺した。

★4.言挙げして悪魔に呪われる。

『さまよえるオランダ人』(ワーグナー)第2幕  さまよえるオランダ人は、かつて嵐の海で、ある岬を廻ろうとした時、「これくらい乗り切って見せる」と豪語した。そのため彼は悪魔に呪われ、以来、永遠に海上をさすらう運命になった→〔さすらい〕2

★5a.神や霊などの問いかけに対し、「やれるものならやってみろ」と答えるのも、言挙げの一種であろう。

(や)ろか水(水木しげる『図説日本妖怪大全』)  大雨が降り続いた時のこと。川上から、しきりに「遣ろか、遣ろか」と声がする。村人たちは気味悪がって沈黙していたが、一人が何を思ってか、「よこさばよこせ」と返事をした。すると、にわかに川が増水し、見る見るうちに一帯が海のようになってしまった。 

★5b.問いかけに怖れて逃げた人は無事で、「やれるものならやってみろ」と挑戦した人は刺された。 

赤いはんてん(松谷みよ子『現代民話考』7「学校ほか」第1章「怪談」の6)  某女子大で、夜十一時三十分に一番奥のトイレに入ると、「赤いはんてん着せましょか」という声が聞こえる。何人もの学生がこの声を聞いたので、警察に来てもらった。トイレに入った婦警さんが気の強い人で、「着せられるもんなら着せてみなさい」と言ったところ、ナイフを持った手が出てきて婦警さんの胸を刺した。あたりに血が飛び散って、赤い斑点ができた(東京都)。

 

 

【言忌み】

★1a.特定の言葉を嫌い、使わないようにする。

『阿Q正伝』(魯迅)  阿Qの頭には数ヵ所、はげがあった。そのため阿Qは、「はげ」及びそれに近い発音の語を嫌い、さらに「光る」「明るい」「ランプ」などの言葉も、自らも使わず他人にも使わせなかった。この禁を犯す者があると、阿Qは、はげまで真っ赤にして怒った。

『続・男はつらいよ』(山田洋次)  車寅次郎は母親(演ずるのはミヤコ蝶々)と会い、傷心して帰宅する(*→〔母さがし〕3)。彼を迎えるとらやの人々は、「お母さん」「お袋」などの言葉を使わないように申し合わせる。しかし、ついそれらの言葉を口にしてしまい、雰囲気を変えるためにテレビをつけると、少女が「お母さーん」と叫ぶシーンが映る。さらに隣のタコ社長が大声で、「寅さん、お袋さんに会ったんだって」と言って、やって来る。

*「鼻」という言葉を使わない→〔鼻〕3の『シラノ・ド・ベルジュラック』(ロスタン)。

★1b.特定の言葉を嫌い、他の言葉で言い換える。

『ガン病棟』(ソルジェニーツィン)26「いい傾向」  癌病棟の回診では「病状が悪化」と言ってはならず、「プロセスが昂進した」というように表現する。「癌」「肉腫」と言わず、「潰瘍」「炎症」「ポリープ」などの言葉を使う。一人の患者が「背中が痛みます。背中にも腫瘍ができたのでしょうか?」と聞いた時、担当医は「違います。それは二次的現象です」と答えた。これは嘘ではなかった。転移は、二次的現象であることに間違いないのである。

『玄怪録』5「冥府の客」  崔紹は熱病で死に、冥府へ連れて行かれた。冥府には多くの建物があり、大勢の人がいて、俗世と変わらなかった。役所の王判官が、崔紹に向かって「貴方はまだ生きていない」と言う。崔紹は意味がわからず不安に思っていると、判官は、「冥府では『死』という言葉を忌むゆえ、『死』のことを『生』と言う」と説明する。まもなく崔紹は赦免され、現世へ帰ることができた。

『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版第32巻42ページ  受験生の娘を持つ家の父親が、浴室で転倒した。妻が「どうなさったの?」と聞くと、父親は「石鹸をふんづけて、両足が上にあがって、頭が下になったんだ」と答える。妻は、「『すべった』という言葉を使わないようにしているんです」と、来訪中のフネに説明する。

*「塩」という言葉を嫌い、「堅塩(きたし)」と言い換える→〔塩〕4の『日本書紀』巻25孝徳天皇大化5年3月。

★2a.特定の言葉を口にしたら、罰金を取られる。

『しの字ぎらい』(落語)  隠居が権助に、「『し』の字を言うな。言ったら給金をやらない。もし私が言ったばあいには、望みの物を与える」と約束する。隠居は権助に、四貫四百四十四文の銭を数えさせるが、権助は巧みに言い換えて『し』の字を言わないので、隠居は思わず、「しぶといやつだ」と言ってしまう。権助は四貫四百四十四文を得る。

★2b.逆に、特定の字を口にしたら田楽が食える、という話もある。

『寄合酒』(落語)  「田楽は、運のつくように食うものだ。『ん』の字を言った数だけ食わせてやろう」と一人が言う。皆は「みかん、きんかん、わしゃ好かん」など、「ん」尽くしの言葉遊びを始める。ずるい男が、火事の半鐘「じゃん、じゃん、じゃん」と消防の鐘「がん、がん、がん」を何度も繰り返して、たくさん田楽を取る。皆が「消防の真似をしたから、お前は、焼かずに生の豆腐を食え」と批難する。 

★3.特定の言葉を口にしなければ、大金を得られる。

『二人でお茶を』(バトラー)  ナネット(演ずるのはドリス・デイ)は、自らが主演するミュージカル上演の資金を出してくれるよう、叔父に頼む。叔父は「四十八時間、何事にも『イエス』と言わず『ノー』と言い続けたら、出資しよう」と約束する。そのためナネットは、恋人ジミーからの求婚に「ノー」と答えざるをえない。実は叔父は、株の暴落で財産を失っていたのだが、幸い他に出資者が現れたので、『ノー・ノー・ナネット』というタイトルのミュージカルを上演することができた。ナネットとジミーも、めでたく結婚した。

★4.特定の言葉を口にして、出入り差し止めになる。

『猿後家』(落語)  某大店(おおだな)の後家は猿に似た顔なので、店では「猿」という言葉が禁句になっている。出入りの男が奈良の名所の話をして「猿沢の池」と言ったため、後家の怒りをかって出入り差し止めになった。男は「御寮人さんは小野小町や照手姫にそっくり」と言って後家の機嫌を取り結ぶが、「唐土では楊貴妃」というべきところ、「よう狒狒(ひひ)に似てます」と言ってしまう。

★5.特定の言葉を口にすると、死ぬ。

『卒塔婆小町』(三島由紀夫)  九十九歳の乞食老婆は、昔「小町」と呼ばれていた。かつて彼女を「美しい」と言った男たちは、今ではもうみんな死んでしまった。それゆえ老婆は、「私を美しいと言う男は、きっと死ぬ」と考える。詩人が老婆と出会い、語り合ううち、詩人の目には、老婆が二十歳の美女に見えてくる。詩人は「君は美しい」と言って、倒れる。

『ファウスト』(ゲーテ)第1部「書斎」・第2部第5幕「宮殿の大いなる前庭」  悪魔が初老のファウスト博士を若返らせ、青春の快楽を与える。その結果、もしもファウストが不断の向上の意志を失って現状に満足し、「時よ止まれ。お前はいかにも美しい」と言ったら、ファウストは死に、その魂は悪魔のものになる→〔土地〕8a

★6a.死を連想する言葉は、慎むべきである。

『無名抄』(鴨長明)  高松の女院(鳥羽院の皇女妹子)の北面で菊合せがあった時、「予(鴨長明)」は「堰(せ)きかぬる涙の川の瀬をはやみくづれにけりな人目づつみは」の歌を披露するつもりで、前もって勝命入道に見せた。入道は「帝や后がお隠れになるのを『崩御』といい、『崩』は『くづる』と読む。院中で詠む歌に『くづれ』という言葉を用いてはならぬ」と指摘したので、「予」は別の歌を詠んだ。その後まもなく女院はお隠れになった。もし「くづれにけりな」の歌を出していたら、「女院崩御の前表」と取沙汰されただろう。 

★6b.正月一日に念仏を唱えるのは、慎むべきである。

『沙石集』巻2−3  金持ちの主人に仕える女童(めのわらわ)は信心深く、いつも念仏を唱えていた。それで正月一日にも、給仕中につい「南無阿弥陀仏」と言ってしまった。主人は「よりによって今日、人が死んだ時のように念仏するとは縁起が悪い」と腹を立て、銭を赤く焼いて、女童の片頬に押し当てた→〔火傷(やけど)〕3。 

★7.まだ現実になっていないことを、口に出して言うのは慎むべきである。

『モンテ・クリスト伯』(デュマ)3  エドモン・ダンテスの許婚メルセデスに向かって、カドルッスが「こんにちは、ダンテスの奥さん」と挨拶する。メルセデスは、「結婚前の娘を『〜の奥さん』と呼ぶと悪いことが起こると言いますから、どうかメルセデスって言ってちょうだい」と頼む。まもなく船長になるダンテスを、ダングラールが「船長さん」と呼ぶ。ダンテスは「まだ船長ではないんですから、そんなふうに呼ばないで下さい。悪いことが起こるといけませんから」と言う〔*ダンテスは牢獄へ入れられ、メルセデスは他の男と結婚する〕。 

 

 

【言霊】

★1.威力ある言葉。

『西鶴諸国ばなし』巻5−6「身を捨てて油壺」  神社の灯明の油を盗んだ老婆が、山姥と見なされ、矢で首を射切られた。以後、老婆の首が夜な夜な現れて、火を吹きつつ飛びまわる。「この火に追い越された者は三年以内に死ぬ」というので、往来の人は怯えたが、首が近寄る時に「油さし」と言うと、たちまち消えるのだった。

『子不語』巻6−133  秦の時代、万里の長城を築くために使役されるのを嫌った人々が、山へ逃げこんだ。彼らは年久しく死なず、背丈一丈余、体中毛だらけの怪物と化して、「毛人」と呼ばれるようになった。毛人は里へ出て人や鶏や犬を食い、鉄砲にも傷つかない。ただ、手をたたいて「長城を築け」と叫べば、あわてて逃げて行くという。

*呪力ある地名→〔地名〕2の重源上人の雷封じの伝説。

*人の心を動かす地名→〔地名〕5の『武蔵野夫人』(大岡昇平)。

*威力ある名前→〔名前〕1a〜1dの『黄金伝説』110「聖キュリアクスとその同勢」、『今昔物語集』巻1−37、『夢を食うもの』(小泉八雲)など。

*→〔呪文〕に記事。

★2a.たとえ話をして相手から言質を取る。

『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第9章  ペリアス王が「市民の一人に殺される、との神託があった場合、その市民をどう処置すべきか?」とイアソンに尋ねる。イアソンは「私だったら、その市民に金毛の羊皮を取って来るよう命令します」と答える。ペリアスはただちに、「その皮を取りに行け」とイアソンに命ずる。

『今昔物語集』巻27−22  夜、狩りのために木に登った兄が、別の木の上にいる弟に、「もし、私の髻をつかみ引き上げる者があったらどうするか?」と問う。弟が「矢で射ます」と答えると、兄は「実は今、我が髻をつかむ者がある。射よ」と弟に命ずる→〔片腕〕1

『サムエル記』下・第12章  人妻バト・シェバ(バテシバ)を奪い、その夫ウリアを殺したダビデ王にむかって、預言者ナタンが、「富んだ男が貧しい人の小羊を取った」というたとえ話をする。ダビデ王が「そんな男は死罪だ」と言うと、ナタンは「その男はあなただ」と指摘する。ダビデ王は「私は主(しゅ)に対して罪を犯した」と認め、死を免れるが、彼がバト・シェバに産ませた子は、まもなく死んだ。

『ホルスとセトの争い』(古代エジプト)  オシリスの死後、兄弟のセト(テュホン)がその役職を引き継ごうとたくらむが、オシリスの妻イシスは、我が子ホルスに跡をつがせたいと考える。イシスは羊飼いの未亡人に変身し、セトに「息子が亡夫の家畜の世話をしているが、よそ者がそれを奪おうとしている」と謎をかける。セトが「家畜は当然、息子のものだ」と言うと、イシスは正体をあらわして、セトを嘲ける。

*言質を取ってから、樽に入れて罰する→〔樽〕5の『がちょう番のおんな』(グリム)KHM89など。

★2b.嘘の話をして相手から言質を取る。

『彼岸花』(小津安二郎)  昭和三十年代前半の東京。会社重役の平山(演ずるのは佐分利信)は娘節子に良縁を捜すが、すでに節子には結婚を誓った恋人がいることを知り、怒り出す。京都から知人の娘幸子(山本富士子)が訪れ、「好きな人がいるので、母の勧める縁談を断って家出して来た」と言う。平山は「親の言うことなど聞かず、君自身で結婚相手を決めればいい」と、幸子の行動に理解を示す。幸子は喜んで「今の話はみんな嘘。おじ様、節子さんの結婚を認めてあげてね」と言い、節子に「おじ様のお許しがでたわ」と電話する。

★3.取り消された言葉。

『捜神記』巻14−11(通巻350話)  馬が、娘を嫁にもらうとの約束で、その父親を遠方へ迎えに行き、連れ帰った。しかし馬が娘を要求すると、父親は怒って馬を殺した→〔馬〕1a

『太平記』巻15「園城寺戒壇の事」  白河院の時、三井寺の頼豪僧都が皇子誕生の祈りを仰せつけられる。無事皇子誕生の後、帝から「望みどおりの恩賞を与える」との宣下があり、頼豪は園城寺の戒壇設立の勅許を願う。帝はいったん勅許を与えながら、比叡山からの抗議により取り消す。頼豪は怒り、帝と比叡山を呪って死ぬ→〔鼠と魂〕1

『道成寺縁起』  熊野参詣途中の美僧が、宿を借りた家の女から言い寄られ、「参詣をすませてから、貴女の意に従おう」と言ってその場をつくろい、熊野参詣後、女の家には立ち寄らず、別の道を通って帰った。違約を怒った女は、蛇体と変じて僧を追い、殺した。

『南総里見八犬伝』肇輯巻之3第6回  里見義実は山下定包を討ち、その妻玉梓を裁く。玉梓の哀訴に、義実はいったんは「赦免しよう」と言うが、金碗八郎の諌言により、ふたたび玉梓処刑の命令を下す。「『許す』と言ったその舌で、すぐまた言葉をひるがえすとは、人の命をもてあそぶも同然」と玉梓は怒り、里見家の子々孫々まで呪って、斬首される。

★4.取り消せぬ言葉。

『創世記』第27章  目の見えぬ老父イサクは、欺かれて次子ヤコブに、跡継ぎとして認める祝福の言葉を与える。長子エサウがそれを知り、「私にも祝福を与えて下さい」と父に迫る。しかし、いったん与えた言葉は取り消すことができず、イサクは「お前の祝福は奪われてしまった」と言う。

『南総里見八犬伝』肇輯巻之5第9回  安西景連に攻められ窮した里見義実は、猛犬八房にむかってたわむれに、「敵景連の首を取ってきたら、娘伏姫とめあわそう」と言う。八房は景連の首を取り、伏姫を要求するので、やむなく義実は伏姫を与える。

『眠れる森の美女』(ペロー)  王女の誕生祝いに招待されなかった仙女が怒って、紡錐による姫の死を宣告する。その言葉を取り消すことはもはや不可能なので、別の仙女が「死ぬのではなく、百年の間眠るだけだ」と、呪いをやわらげる〔*『いばら姫』(グリム)KHM50に類話〕→〔眠る女〕1

『ラーマーヤナ』第2巻「アヨーディヤー都城の巻」第11〜12章  かつてダシャラタ王は戦場で傷ついた身を、カイケーイー妃に救われ、看護されたことがあった。その時ダシャラタ王は、「二つの望みを叶えよう」とカイケーイー妃に約束した。年月を経てカイケーイー妃は、自分の息子バラタを皇太子にすることと、カウサリヤー妃の息子ラーマを森へ追放することを、ダシャラタ王に要求する。約束ゆえ、ダシャラタ王はその望みを叶えねばならなくなる→〔誤射〕2

*言い間違いでも、取り消せない→〔死の起源〕3のレ・エヨの神話(コッテル『世界神話辞典』)。 

*誤解にもとづいて発せられた言葉も、取り消すことはできない→〔一妻多夫〕2の『マハーバーラタ』第1巻「序章の巻」。

*取り消せぬ約束・命令などの効力を無化する方法→〔契約〕4の『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第12章など。

★5a.出まかせに言ったり書いたりした言葉が、現実のものになる。

『摂津国風土記』逸文  刀我野の牡鹿が、「私の背中に草が生え、雪が降る、という夢を見た」と妻の牝鹿に語る。牝鹿は、夫が淡路の妾の所へ通うのをやめさせようと、「それは矢で背を射られ、塩を肉に塗られる前兆です。淡路へ行ってはなりません」と、いつわりの夢解きをする。しかし牝鹿は妾恋しさに淡路へ出かけ、妻が言ったとおり射殺された〔*『日本書紀』巻11仁徳天皇38年7月の条に簡略な異伝が載る〕。

『龍』(芥川龍之介)  「鼻蔵」と呼ばれる法師が猿沢の池に、「三月三日、この池より龍が昇る」と、出まかせを書いた高札を立てる。ところがそれが評判となって、当日は大勢の見物人が猿沢の池へ押し寄せたので、鼻蔵自身も、「本当に龍が昇るかもしれぬ」という気になる。突然激しい雷雨となり、人々は一瞬、昇天する黒龍を見る〔*原話である『宇治拾遺物語』巻11−6では、龍は昇らない〕。

*何気なく発した一言が、人の死を引き起こす・もしくは死の予言になる→〔星と生死〕3の『今昔物語集』巻28−22。

*何気なく発した言葉が、自分の将来の運命の予言になる→〔予言〕7の『過去』(志賀直哉)など。

*父親が「狐のようだ」と言ったために、子供が狐になる→〔転生先〕5aの『日本霊異記』中−41。

*父親が「烏になっちまえ」と言ったために、子供たちが烏になる→〔呪い〕1の『七羽のからす』(グリム)KHM25。

*寺への寄付を断った言葉が、思いがけない形で現実になる→〔鐘〕5のつかずの鐘の伝説。 

★5b.事実と反する嘘を言うと、その言葉が本当になってしまう。

『黄金伝説』30「聖ユリアヌス」  男たちが仲間の一人を牛車に寝かせ、「死体を運ぶ途中だ」と偽って、教会建設作業の手伝いを断る。聖ユリアヌスが「あなたがたの言葉どおりになるように」と言うと、牛車の男は本当に死んでしまった。

『怪鳥(ばけどり)グライフ』(グリム)KHM185  百姓の長男が王女の婿になろうと、りんご(*→〔りんご〕1)を籠に入れて出かける。途中で会った小人に籠の中身を問われ、長男は「蛙の足だ」と嘘を言う。王宮で籠を開けると、蛙の足が出てくる。次男も同様にして、籠の中のりんごが靴刷毛になってしまう。三男ハンスは粘土を籠に入れて出かけるが、「中身はりんごだ」と小人に答える。王宮で籠を開けると黄金のりんごが出てくる。ハンスは王女と結婚して王になる。

*パンを「石だ」と言ったら、本当に石になった→〔パン〕6の『ドイツ伝説集』(グリム)241「石になったパン」。

*『イソップ寓話集』210「羊飼いの悪戯(*→〔嘘〕2)」を源泉として流布した、いわゆる「狼少年」の物語では、少年が「狼が来た」と嘘を言って村人たちをだましているうちに、本当に狼がやって来る。これは嘘が本当になった、つまり、少年の言葉に内在する言霊が少年の意図を超えて発動した、と考えることができる。

*でたらめのつもりで言ったことが、偶然、現実と一致した→〔嘘〕8aの『壁』(サルトル)。

★6.妖怪を話題にすると、妖怪が現れる。

油すまし(水木しげる『図説日本妖怪大全』)  熊本県天草の草積越(くさづみごえ)という山道には、昔から妖怪「油すまし」が住んでいる、といわれていた。明治の頃、お婆さんが草積越を通る時、「今はもういないだろう」と思って、「昔はここらに『油すまし』が出たそうだ」と、孫に教えた。するとガサガサと音がして、「今でもいるぞ!」と言って「油すまし」が出てきた〔*「油すまし」の実態はどんなものであるのか不明〕。 

★7.冗談で言った言葉を相手が真にうけ、重大な結果をもたらす。

『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版・第33巻45ページ  ワカメの友達ミツコちゃんが遊びに来たので、マスオが「ミツコちゃん、僕のお嫁さんにならないかい?」と冗談を言うと、「うん。なる」と答えるので、マスオは笑って自室に引き上げる。夜になってサザエが、「あなた。絶対帰らないって言ってるわよ」と知らせに来る。ミツコちゃんとサザエにはさまれて、マスオは「弱ったね」とつぶやく〔*→〔像〕8bの、人間が像と結婚を約束する物語と類似の発想〕。

『十八史略』巻4「東晋」  東晋孝武帝が酔って、三十歳の寵妃張貴人に「汝ももうお払い箱の年令だ」と冗談を言った。張貴人はこれを本当と思い、婢に命じて帝を殺させた。

『醒世恒言』第33話「十五貫戯言成巧禍」  劉旦那が、商売の元手の十五貫を愛妾に示し、「お前を売った金だ」と冗談を言う。妾はそれを真に受け、夜の間に家を抜け出て、実家へ向かう。その間に劉旦那は泥棒に殺される。妾と、彼女の道連れになった若者とが、劉旦那殺しの濡れ衣をきせられ、処刑される。

*死者を食事に招くと、本当にやって来る→〔首くくり〕5の『ドイツ伝説集』(グリム)336「絞首台から来た客」。

*像を食事に招くと、本当にやって来る→〔像〕8aの『ドン・ジュアン』(モリエール)など。

*からかいの言葉を真に受けて、落ちている金を拾う→〔金を拾う〕3の『西鶴諸国ばなし』巻5−7「銀が落としてある」。

 

 

【五人兄弟】

★1.五人兄弟の物語。

『マハーバーラタ』  パーンドゥ王の第一夫人クンティーは、ユディシュティラ、ビーマ、アルジュナの三王子を産み、第二夫人マードリーは、ナクラ、サハデーヴァの二王子を産んだ。彼ら五人兄弟は、伯父ドリタラーシュトラの子供である百人の王子たちと、領土をめぐって戦う。両軍多数の将兵を率いての十八日間にわたる大戦争に、五王子たちは勝利する。後に彼ら五王子たちは世を捨ててヒマラヤ山に登り、神々に迎えられて天界に入った〔*実際はパーンドゥ王の願いにより、神々がクンティーとマードリーに子種を授けた。パーンドゥ王は「性交中に死ぬ(→〔性交と死〕2)」と宣告されていたからである〕。

『若者のすべて』(ヴィスコンティ)  田舎から職を求めてミラノの町へ来た、母と五人兄弟の物語。長男ヴィンツェンツォは結婚して、自分の生活を守るのに精一杯である。次男シモーネ、三男ロッコ(演ずるのはアラン・ドロン)はボクサーになるが、シモーネの愛人がロッコに心を移したため、シモーネは愛人を刺殺する。心優しいロッコはシモーネを責めず、かばおうとするので、四男チーロは怒って家を飛び出す。数日後、チーロの働く工場へ、末子ルーカが「シモーネが逮捕された」と知らせに来る。

*馬氏の五人兄弟(白眉の故事)→〔眉毛・睫毛〕6の『蒙求』569「馬良白眉」。

★2.五人の兄弟分。五人組。

『ワイルドバンチ』(ペキンパー)  五人組の強盗団、パイク(演ずるのはウィリアム・ホールデン)、ダッチ、ライル、テクター、エンジェルが、メキシコ政府のマパッチ将軍の要請で、アメリカ軍の輸送列車から武器弾薬を強奪して、一万ドルの報酬を得る。しかしエンジェルが武器一箱を革命派に渡したため、マパッチ将軍はエンジェルを捕らえて殺す。怒ったパイクたち四人は、ライフルや機関銃を乱射して、マパッチ軍二百人と戦う。四人は全身に弾丸を浴びて絶命するが、マパッチ軍も大半が死んだ。

『我等の仲間』(デュヴィヴィエ)  仲の良い友達、ジャン、シャルル、タンタン、マリオ、ジャックの五人が共同で買った宝くじが、十万フランに当たった。彼らは十万フランを山分けせずに、皆で田舎の土地と建物を買い、レストラン「我等の家」を始めようと相談する。しかし美女ユゲットや、シャルルの別れた妻ジーナが現れて、男たちの心に変化が生ずる。ジャックは一人で旅に出る。マリオはユゲットと外国へ去る。ジーナは夫シャルルから金をせびり取り、ジャンを誘惑する。タンタンはパーティの日、屋根から落ちて死ぬ→〔映画〕7

★3.天父と地母から生まれた五兄弟。

天父地母と五人の息子の神話  天父と地母が五人の息子(太陽・月・火・風・霧)を産んだ。天父と地母はぴったり密着していたので、息子たちは活動の場がなかった。火と霧が天父を攻撃し、太陽と月と風が地母にぶつかって、ついに天父と地母は分離した。天父に敵対した火と霧は地上に残り、地母に敵対した太陽と月と風は天上に昇った(バルカン、ジプシー)。

★4.アマテラスとスサノヲから生まれた五兄弟。

『古事記』上巻  アマテラスが身につけている多くの勾玉を、スサノヲが口に入れて噛み砕き、吐き出す息の霧から、五柱の男神が生まれ出た。最初にマサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミノミコト(正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命)、続いてアメノホヒノミコト、アマツヒコネノミコト、イクツヒコネノミコト、クマノクスビノミコトの順に生まれ出た。この五神はアマテラスの勾玉を物実(ものざね)として生まれたので、アマテラスの子とされた〔*マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミノミコトの子がニニギノミコトである〕。 

*アマテラスとスサノヲから生まれた三姉妹→〔三人姉妹〕5の『古事記』上巻。

 

※五人の田舎者→〔蚊帳〕3の『飛びこみ袋』(日本の昔話)。

 

 

【五人姉妹】

★1.五人姉妹の物語。

『高慢と偏見』(オースティン)  田舎町の名家ベネット家には五人の娘、ジェイン、エリザベス、メアリ、キャサリン、リディアがいた。五人姉妹のうち、次女エリザベスはダーシー青年と知り合い求婚されるが、彼を高慢だと思って拒否する。後にエリザベスは自分の偏見に気づき、ダーシーの愛を受け入れる。長女ジェインはダーシーの友人ビングリーと結婚し、末娘リディアは仕官ウィカムといったん駆け落ちした後、正式に結婚する。一年のうちに五人姉妹の三人までが幸せな結婚をしたので、母親ベネット夫人はたいへん満足する。

『屋根の上のバイオリン弾き』(ジュイソン)  伝統を重んずるアナテフカ村では、父親が子供の結婚相手を決めるのが、しきたりであった。牛乳屋テビエは妻との間に、五人の娘をもうけていた。四女、五女はまだ子供だったが、長女、次女、三女は適齢期を迎えていた。長女のもとへ、金持ちの肉屋の後妻になる話が持ち込まれ、テビエはそれを承知する。ところが長女は、幼なじみの貧しい仕立て屋と結婚したいと言う。次女は都会の学生を恋し、三女は他村の若者を愛して、家を出て行く。テビエは怒り、嘆きながらも、娘たちの結婚を認めざるをえなかった→〔旅立ち〕2。 

★2.仲の良い五人の少女たち。

『五人少女天国行』(ワン・チン)  雲南省の貧しい山村。娘たちは年頃になると、親が決めた家へ嫁に行き、苦労の多い一生を送るのである。村には一つの伝説があった。嫁入り前の清らかな身体で死んだ娘は、天国の花園へ行って、年をとることもなく幸福に暮らせる。仲良しの五人の少女は、この伝説を信じた。ある日、五人は村はずれの小屋に集まり、一列に並んで首を吊った。

 

 

【小人】

★1.小さな身体の男が、物語の主人公になって活躍する。

『親指小僧』(グリム)KHM37  百姓夫婦に親指の大きさの子が生まれ、親指小僧と名づけられる。親指小僧は馬の耳に入って馬方の仕事をし、泥棒の仲間になるふりをしつつ大声で人を呼び、牛や狼に呑まれたりする冒険の末、家に戻る。

『親指小僧』(ペロー)  木樵りの七人の息子は、長男が十歳、末子が七歳だった(つまり双子が何組かいた)が、末子は身体が弱く小さく、生まれた時は親指ほどの大きさだったので、親指小僧と呼ばれた→〔闇〕2

『小男の草子』(御伽草子)  大和国に丈一尺、横八寸の小男がいた。男は上京して清水寺参詣の美女を見そめ、すぐれた歌を詠んで美女の心を得て、夫婦となる。後、男は五条天神、女は道祖神となった。

★2.小さな身体の娘。

『親指姫』(アンデルセン)  チューリップの花のめしべから生まれた女の子は、親指ほどの大きさだったので、親指姫と呼ばれた。親指姫は、ヒキガエルやモグラの花嫁にされそうになるが、魚や燕に助けられる。親指姫は、白い花の上にいた美しい小さな王子と出会い、結婚して、花の女王様になる。  

穀物の神・矮姫(サヒメ)の伝説  矮姫は、人並みならぬ小さな身体だった(*→〔遺言〕5)。彼女は赤雁の背に乗り、日本の島根地方へ渡って、さまざまな穀物の種をまいた。また、人々の脅威であった足長土(あしなづち)の神に妻を与えて東国へ旅立たせ(*→〔二人一役〕2)、島根一帯を「安国(やすくに)」(あるいは「心安国(うらやすぐに)」)となした(島根県那賀郡三隅町)。  

*イザナキノミコトは、日本(やまと)を「浦安の国」と名づけた→〔国見〕2の『日本書紀』巻3神武天皇31年。 

★3.森に住む小人たち。

『海の水はなぜからい(塩挽き臼)』(日本の昔話)  森の神様のお堂の後ろに穴があり、そこに小人たちが住んでいる。小人たちは宝物の石の挽き臼を、訪れた貧しい男に与える。その挽き臼は、右に回せば欲しい物がいくらでも出た。左に回せば止まった(岩手県上閉伊郡)。

*七人の小人が住む森の一軒家に、白雪姫が迷い込む→〔七人・七匹〕2の『白雪姫』(グリム)KHM53。

★4.小人の国。

『御曹子島渡』(御伽草子)  御曹子義経は蝦夷が島を目指して船出し、途中、背丈一尺二寸ばかり、扇の長さほどの人たちが住む、小さ子島に着く。そこは菩薩島ともいい、昼夜三度ずつ二十五菩薩が姿を現し、住人の寿命は八百歳だった。

『ガリヴァー旅行記』(スウィフト)第1篇  「私(ガリヴァー)」の乗った船は一六九九年五月四日にブリストルを出航したが、半年後、暴風雨のため南太平洋上で難破した。「私」は、身長六インチ足らずの小人たちが住むリリパット国に漂着し、一年九ヵ月余りをそこで過ごした。

『風流志道軒伝』(平賀源内)巻之3  浅之進(志道軒)は、風来仙人から得た羽扇で空を飛び、身長一尺二〜三寸の人たちが住む小人島に降りる。奥へ行くほど人は小さく、五寸の人や三寸の人があり、奥小人島に到れば、住む人は豆人形ほどであった。

★5a.夜のうちに仕事をしてくれる小人。

『魔法を使う一寸法師』(グリム)KHM39「一番目の話」  靴屋が翌日の仕事のための革を用意して、翌朝起きると、いつのまにか靴ができあがっている。何日もそれが続くので、夜見張っていると、裸の一寸法師二人が来て、せっせと靴を縫う。靴屋夫婦は返礼に、一寸法師に服を作ってやる。一寸法師は以後来なくなったが、靴屋は生涯幸せに暮らした。

★5b.夜のうちに魚を届けてくれる小人。

コロポックルの伝説  アイヌ来住以前から、北海道にはコロポックルという小人たちがいた。彼らは絶対に姿を見せないが、川や海で獲った魚を、深夜にアイヌの家の前へ置いて行った。コロポックルの姿を見たいと思う若者が、ある夜一人をつかまえたが、逃げられてしまった。コロポックルは背丈一メートルほどで、顔にいれずみをしていた。この出来事の後、コロポックルたちは皆どこかへ行ってしまったらしく、魚が届くこともなくなった(北海道宗谷宗谷郡猿払村)。

★6.夜中に枕元で騒ぐ小人たち。

『異界からのサイン』(松谷みよ子)11「豆粒ほどの兵隊たち」  「私(松谷みよ子)」が、ある人からいただいた手紙に記されていた体験談。太平洋戦争で戦死した夫の霊を慰めようと、その人は慰霊団に加わって南の島を訪れた。遺骨代わりに墓に納めるべく、海辺の砂をビニール袋に入れ、ホテルのベッドの枕元に置いた。夜、胸苦しくて目覚めると、小さな豆粒ほどの日本兵たちが、「おい、日本に帰れるぞ」「めしが食いたい」「日本の水を飲みてえよ」としゃべりながら、動きまわっていた。隣にいた孫も、それを見た。 

『ちんちん小袴』(小泉八雲)  毎夜、丑の刻に、身の丈一寸ほどの小人が何百となく、武士の若妻の枕元に現われて、「ちんちん こばかま 夜も更け候・・・」と歌い、踊る。小人たちは裃を着て、刀を差していた。夫が小人たちに刀を振りかざすと、たちまち彼らは無数の楊枝になった。若妻は怠け者で、自分の使った楊枝を片付けず、畳と畳の間に刺し込んでいた。それらの楊枝が、小人に化したのである。 

*米粒を投げて、小人たちを追い払う→〔うちまき〕1aの『今昔物語集』巻27−30、『まめつま』(小松左京)。 

★7.海から来る小人。

『古事記』上巻  オホクニヌシが出雲の御大(みほ)の御前(みさき)にいた時、たいへん小さな船に乗った神が、海の向こうから波の上を渡って近づいて来た。この神はスクナビコナで、親神カムムスヒの手の指の間から、漏れこぼれた子供だった(*→〔手〕7)。スクナビコナはオホナムヂ(オホクニヌシ)と力を合わせて国を造り固め、後、常世国へ去って行った〔*『日本書紀』巻1・第8段一書第6では、スクナビコナは淡嶋へ行って粟茎(あはがら)に登り、弾かれて常世郷(くに)へ行った、と記す〕。

浪小僧(『水木しげるの日本妖怪紀行』)  曳馬野(ひくまの=現・浜松市)に住む少年が、田を耕して小川で足を洗っていると、草むらから、親指ほどの小さな子供が呼びかけた。「私はこの前の海に住む浪小僧です。大雨に浮かれて陸へ上がりましたが、日照りになってしまい、家に帰れません。どうか海までお連れ下さい」。少年は、浪小僧を海まで送ってやった→〔波〕3

★8a.小人が見る見る大きくなり、金銀もたくさん出て来る。

『一寸法師』(御伽草子)  背一寸で生まれた一寸法師は、十二〜三歳まで育てても人並みの背丈にならなかった。彼は家を出て都の宰相殿に奉公し、十六歳の時、姫君とともに興がる島(きょうがるしま)へ行って、鬼から打出の小槌を奪い取る。小槌を打って背丈を大きくし、金銀もたくさん打ち出して、一寸法師と姫君は都へ上る。二人の間には、若君が三人できた。

*→〔壺〕4の『壺むすこ』(インドの昔話)も同類の物語。

★8b.小判が出て来るのと引き換えに、一人前の人間が縮んで小人になる。

『宝下駄』(日本の昔話)  欲ばり男の権造(ごんぞう)が、一本歯の下駄を得た。この下駄をはいて転ぶと、転ぶごとに小判が出て来る。けれども、あまりごろごろ転んでいると、背が低くなる。権造は何度も何度も転び、小判は山のように出て来たが、権造の身体はしだいに小さくなり、しまいには虫のようになってしまった。今いる「ごんぞう虫」という虫は、この欲ばり権造がなったものだ(岡山市)。

*身体が無限に小さくなるが、ゼロにはならない→〔無限〕1の『縮みゆく人間』(マシスン)。

★9.身体の小さな男が、見世物にされる。

『踊る一寸法師』(江戸川乱歩)  三十男の顔に子供の胴体がついた一寸法師の緑(ろく)さんは、曲馬団の仲間から、いつもからかわれ、いじめられていた。ある夜、彼は怒りを爆発させ、美人玉乗りのお花を、胴体串刺しの見世物に使う箱に入れ、何本もの日本刀で突き殺す。さらに、青龍刀で首を切断し、テントに火をつける。月光の下、一寸法師はスイカに似た丸いものを、提灯のようにぶら下げて踊り狂った。

*首と西瓜→〔首〕7の『サザエさん』(長谷川町子)など。

 

※夜の山で小人たちと踊る→〔踊り〕2の『小人のおつかいもの』(グリム)KHM182。

 

 

【殺し屋】

★1.殺し屋に仕事を依頼したことを後悔する。 

『豚と軍艦』(今村昌平)  一九六〇年頃。吐血したヤクザ(演ずるのは丹波哲郎)が「胃癌だ」と思い込み、絶望して鉄道自殺をはかるが死にきれず、知り合いの殺し屋に「お前の好きな時に、不意打ちで俺を殺してくれ」と頼む。ところがその直後に、ヤクザの病気は胃潰瘍で、安静にしていれば治ることがわかる。ヤクザは今度は殺し屋におびえ、逃げ回らねばならなくなる〔*映画中の一挿話なので、そこまでで話は終わっている〕。

『ボディガード』(ジャクソン)  ニッキーは、大スターとなった妹レイチェル(演ずるのはホイットニー・ヒューストン)に嫉妬し、バーで出会った男にレイチェル殺しを依頼する。後、ニッキーはそのことを後悔するが、男の名前も知らず連絡方法もない。レイチェルをねらって侵入して来た男に、ニッキーは「もうやめて」と言うが、その場で射殺されてしまう〔*アカデミー賞の授賞会場で、男はレイチェルを銃撃する。しかしボディガードのフランク(ケヴィン・コスナー)がレイチェルをかばって銃弾を受け、重傷を負いながらも男を射殺した〕。

★2.殺し屋に追われる人。 

『殺人者』(ヘミングウェイ)  午後五時、二人組の殺し屋が簡易食堂へやって来る。彼らは、毎晩ここへ食事に来るアンドルソンという男を殺すつもりだった。しかし七時になってもアンドルソンが来ないので、殺し屋たちは引き上げる。食堂の従業員が、近所の下宿屋に住むアンドルソンに、殺し屋のことを知らせる。アンドルソンは一日中部屋にこもっていたが、すでに死を覚悟しており、「もうしばらくしたら、外へ出て行く決心がつくだろう」と言った。

★3.足を洗おうとする殺し屋は、殺される。

『ビッグ・ガン』(テッサリ)  殺し屋トニー(演ずるのはアラン・ドロン)は、小学校へ入ったばかりの一人息子の将来を思い、「足を洗いたい」と組織のボスに言う。組織の幹部たちは、「トニーをこのまま生かしておくわけにはいかない」と結論し、彼の車に爆弾を仕掛ける。その日トニーは車に乗らず、代わりに愛妻と一人息子が爆死した。怒りに燃えたトニーは、組織の幹部や手下たちを次々に殺す。しかし最後には、組織側に寝返った友人によって、トニーは射殺される。

★4.貴賤無数の人々を殺し続ける男。

『中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃』(三島由紀夫)  殺人ということが、「私」の成長であり発見だ。殺人者は造物主の裏。その偉大と歓喜と憂鬱は共通である。室町幕府二十五代将軍足利義鳥を殺害。北の方瓏子(れいこ)を殺害。乞食(こつじき)百二十六人を殺害。能若衆花若も、遊女紫野も、肺癆人も殺した。殺人者は理解されぬとき死ぬものだと伝えられる。使命も意識も、殺人者にとっては弱点なのだ。

★5.殺すべき相手が誰か、自問する殺し屋。

『アントニオ・ダス・モルテス』(ローシャ)  二十世紀後半、ブラジルの貧しい山村。カルト教団を弾圧すべく、警察署長が、殺し屋アントニオ・ダス・モルテスを呼ぶ。アントニオは、カルト教団のリーダーと剣で決闘して重傷を負わせ、リーダーはやがて死ぬ。しかし、村を支配する地主たちの腐敗ぶりを見て、アントニオは「倒すべき相手を間違えたのではないか?」と思う。地主に雇われた悪党集団が、教団の信者たちを銃撃して、大勢を虐殺する。今こそ、真の敵が誰なのか知ったアントニオは、銃を連射して悪党どもをなぎ倒し、教団の生き残りが、槍で地主を突き殺す。

★6.女殺し屋。

『ニキータ』(ベッソン)  パリの不良娘ニキータ(演ずるのはアンヌ・パリロー)は、警官を射殺して逮捕された。政府の秘密機関が、ニキータの素質を見込んで教育と訓練を施し、彼女を殺し屋に仕立て上げる。ニキータは「看護師マリー」と名乗って暮らし、スーパーのレジ係マルコと恋仲になって同棲する。彼女は優秀な殺し屋であったが、ソ連大使館からの情報取得に失敗し、窮地に陥る。マルコは「君の仕事のことは気づいていた。愛している」と言って、ニキータを逃亡させる。

*女殺し屋と見せかけて、実は看護婦→〔死因〕5の『殺し屋ですのよ』(星新一『ボッコちゃん』)。

 

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