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【妊娠(男の)】

★1.二人の男が交わって、一方が妊娠する。

『なぜ神々は人間をつくったのか』(シッパー)第7章「最初に女がいなかった場合」  創世の時代。二人の男が交わり、その結果、一方が妊娠した。しかし彼は出産できず、分娩中に死んだ(ブラジル、シェレンテ族)。*男たちは女を求めた→〔水鏡〕4

★2.男女の夫婦で、夫が妻の子を身ごもる。

『笑ゥせぇるすまん』(藤子不二雄A)「主夫道」  三十二歳のサラリーマン梶大介は、共働きの妻から家事を分担するよう要求され、困っていた。喪黒福造がカルチュアスクールを紹介し、梶大介は炊事・洗濯・掃除を学んで、自らの家事の才能に目覚める。彼は、楽しい家事に専念したいと思い、会社を辞めてしまう。喪黒福造は「こうなったら、徹底的に主夫道を追求して下さい」と言って、「ドーン!」と引導を渡す。それからまもなく、梶大介は妻の子を身ごもった。

★3.男が水を飲んで妊娠する。

『西遊記』百回本第53回  三蔵法師の一行が、西梁女人国までやって来る。三蔵法師と猪八戒は喉がかわいたので、子母河の水を飲む。まもなく二人は腹痛に苦しみ、腹がふくれる。土地の女が「この国は女ばかりで男がおらず、子母河の水を飲んで子を産むのだ」と教え、三蔵と八戒は妊娠したことがわかる。孫悟空が、三千里離れた落胎泉までキン斗雲で飛び、泉の水を汲んで来て二人に飲ませ、腹中のものを堕す。

★4.男が口から妊娠し、口から出産する。

『黄金伝説』84「使徒聖ペテロ」  皇帝ネロが「男である私を妊娠させよ」と医師たちに命ずる。医師たちは、蛙を飲み物に混ぜてネロに飲ませ、医術を用いて蛙をネロの体内で成長させる。ネロは腹が膨らみ「陣痛で苦しい」と訴え、医師たちはネロに吐き薬を処方する。ネロは、血と反吐にまみれた蛙を口から吐き出し、それを本当に自分が産み落としたものと思った。

『失われた時を求めて』(プルースト)第4篇「ソドムとゴモラ」の、シャルリュス男爵と仕立屋ジュピアンの同性愛の場面(*→〔同性愛〕1)に、「ここでは子供ができる心配はない。『黄金伝説』のありそうもない例はともかくとして」と、ネロの妊娠の物語をふまえた表現が見られる。

*口に何かが入って妊娠→〔口に入る〕1の『史記』「殷本紀」第3など、→〔口に入る〕2の『三宝絵詞』中−1など。

 

 

【妊娠(風による)】

★1.風を受けて妊娠する。

風によって孕んだ先祖の神話  昔、まだ人間のいない時、天から男(シネリキュ)と女(アマミキュ)が、沖縄の島に降った。二人は家を並べて住んだ。彼らは性交はしなかったが、往来する風を媒介として、女は三人の子供を産んだ。第一子は諸方の主の始め、第二子はノロ(=女祭司)の始め、第三子は土民の始めである(琉球)。

『カレワラ』(リョンロット編)第1章  大気の娘イルマタルが、天空から海原へ降り、波間を漂った。風が吹いて処女イルマタルを身ごもらせ、海が彼女を身重にした。イルマタルは長い年月を経ても出産することができず、苦しんだ。彼女は天地を創造し(*→〔天地〕2a)、その後にようやく詩人ワイナミョイネンが、イルマタルの胎内から生まれ出た。彼は生まれながらに老人だった。 

『なぜ神々は人間をつくったのか』(シッパー)第7章「最初に男がいなかった場合」  女人国に住む女たちは、子供が欲しくなると屋根や山に登り、かがみこんで臀部を突き出して、風にさらす。風が性器に吹き込むと子供が腹に入る。女児が生まれればめでたいが、男児が生まれると女たちは嘆き悲しみ、赤ん坊を切り裂いて殺してしまう(インド、ワンチョ族。台湾、ブヌン族ほか)。   

*アマゾンたちも、女児だけを養育した→〔乳房〕12の『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第5章。

*女護が島の女たちは、風によって身ごもる→〔女護が島〕2の『御曹子島渡』(御伽草子)、『風流志道軒伝』(平賀源内)巻之5。

 

 

【妊娠(太陽による)】

★1.日光感精。太陽の光をうけて妊娠する。

『三国遺事』巻1「紀異」第1・高句麗  部屋に閉じこめられた女(柳花)を日光が照らし、身を避けると追って来て照らした。彼女は身ごもり、卵を産んだ〔*『三国史記』巻13「高句麗本紀」第1・第1代始祖東明聖王前紀に同記事〕→〔誕生(卵から)〕3

うつぼ舟の伝説(天道童子の伝説)  天武天皇の頃。内院の女御と侍女を乗せた、箱型の大きな虚船(うつぼぶね)が対馬に流れつき、二人は島に住みついた。ある時、侍女は朝日にむかって小便し、太陽の光をうけて孕み、子を産んだ。その時、五色の雲がたちこめて誕生を祝った。この子は「天道(=太陽)童子」と名づけられ、十一面観音の化身とも言われた(長崎県下県郡厳原町豆酘)。

『八幡愚童訓』下  震旦国陳の大王の娘大比留女は、七歳の時、仮寝していて朝日の光が胸にさして懐妊した。

*太陽の光が女の陰部を指す→〔虹〕3bの『古事記』中巻。

★2.太陽神と交わって身ごもる。

『マハーバーラタ』第1巻「序章の巻」  行者ドゥルヴァーサが、天界の神から子種を授かるマントラを、少女クンティー(プリター)に与える。クンティーが太陽神スーリヤを心に念じると、スーリヤが現れてクンティーと交わる。彼女は身ごもり、男児カルナを産む〔*クンティーは、カルナの処置に困って川に捨てる。カルナはドリタラーシュトラの御者夫婦に拾われて育ち、やがてパーンダヴァ五兄弟と戦う〕。

★3.太陽に子を願って身ごもる。

『かるかや』(説経)「高野の巻」  夫を持たぬ「あこう御前」は、日輪に申し子をしたいと思い、屋根の上に一尺二寸の足駄をはいて立ち、三斗三升の水を入れた桶を頂いて、二十三夜の月を待つ。その時、「西海から黄金の魚が胎内に入る」との夢想を得て彼女は身ごもり、男児(後の空海)を産んだ。

★4.太陽の夢を見て身ごもる。

『漢武故事』1  漢の武帝の母は、太陽が懐に入る夢を見て懐妊した。

『太閤記』(小瀬甫庵)巻1  豊臣秀吉の母は、太陽が懐に入る夢を見て懐妊した。

 

 

【妊娠(玉を得て)】

★1.玉を得る夢を見て、妊娠・出産する。 

『今昔物語集』巻12−32  源信僧都の母は女子を多く持っていたが、男子がいなかったので、高尾寺に詣でて男子誕生を祈った。彼女は、「僧から一つの玉をもらう」との夢を見て懐妊し、源信を産んだ〔*源信は『往生要集』などの書を著し、七十六歳で極楽往生した〕。

『神道集』巻2−7「二所権現の事」  斯羅奈国の大臣・源中将尹統夫妻が、観音に申し子をし、水精の玉を賜って左の袂に入れる夢を見る。まもなく北の方は常在御前を産む。

『神道集』巻6−33「三島大明神の事」  伊予の国の長者橘朝臣清政夫婦が、長谷寺の観音に申し子をする。観音は、水晶の玉を清政に授ける。清正は玉を受け取って奥方に与え、奥方はそれを口に入れる、と見て夢がさめた。奥方は妊娠し、若君(玉王)を産んだ。

『梵天国』(御伽草子)  右大臣高藤夫婦には子がなかった。夫婦は清水寺に参籠して子を願い、七日目の暁に「高僧が玉を大臣の左袖に入れる」との夢を見た。まもなく北の方は懐妊し、若君が生まれた。「玉若」と名づけられた若君は成長後、梵天国王の姫君と結婚した。

★2.玉を得そこなうが、妊娠・出産する。  

『南総里見八犬伝』第2輯巻之3第16回  犬塚番作の妻手束は子授けを願い、三年間毎朝、滝の川の弁才天へ参詣する。紫雲の中に、黒白斑毛の老犬に腰掛けた山媛(=伏姫神霊)が現れ、一つの珠を手束に投げ与える。珠は手束のそばにいた子犬の近くに落ち、捜しても見つからない。手束は子犬を抱いて帰る。まもなく手束は身重になり、翌年、犬塚信乃を産む〔*珠は子犬が呑み込んでいた〕。

  

※一夜だけの交わりで妊娠する→〔一夜孕み〕に記事。

※「妊娠」と「鯡(にしん)」の聞き違い→〔聞き違い〕2の『あばばばば』(芥川龍之介)。

 

 

【妊娠期間】

★1.妊娠期間が長い。

『ヴォルスンガ・サガ』2  レリル王の后は、身ごもって六年を経ても子を産み落とすことができず、やむなく切開して男児(ヴォルスング)を取り出した。ヴォルスングはフンの国の王となり、数々の戦に勝利をおさめた〔*ヴォルスングの子がシグムンド、孫がシグルズである〕。

『かるかや』(説経)「高野の巻」  三国一の醜女である「あこう御前」が、日輪に申し子して産んだ男児(後の空海)は、三十三ヵ月胎内にいた後に誕生した。

『義経記』巻3「熊野の別当乱行の事」〜「弁慶生まるる事」  弁慶は、母(二位大納言の姫君)の胎内に十八ヵ月いて生まれた。父(熊野の別当弁せう)は、「将来、親の仇となるだろうから、殺してしまえ」と言った。弁せうの妹が、「西天竺の黄石公の子は、懐妊後二百年して生まれた。武内大臣(武内宿禰。*→〔長寿〕1の『因幡国風土記』逸文)は、母胎に八十年いて白髪で生まれ、二百八十歳の長寿を保ち、現人神(あらひとがみ)と崇(あが)められた」と例をあげ、弁慶をもらい受けて養育した〔*『橋弁慶』(御伽草子)では三十三ヵ月、『じぞり弁慶』『弁慶物語』では三年三ヵ月、胎内にいた〕。

『南総里見八犬伝』第6輯巻之3第55回  武蔵国赤塚城主千葉介自胤の家老・粟飯原(あいはら)胤度は、馬加大記によって謀殺された。粟飯原の妾調布(たつくり)は、身ごもって三年を経ても出産せぬまま追放され、相模国足柄郡の犬坂という山里で男児(後の犬坂毛野)を産んだ。

*母胎に三年六ヵ月→〔出産〕6の『封神演義』第12回。

*母胎に七十二年→〔白髪〕1aの『神仙伝』巻1「老子」。

★2.赤ん坊の身体に入るべき魂が、いつまでも霊界にとどまっているために、妊娠してもなかなか生まれない。

『剪燈新話』巻3「愛卿伝」  夫の不在中、操(みさお)を守って自死した愛卿に(*→〔帰還〕2)、冥府の役人が「貞女ゆえ、さっそく遠方の宋家の男児になって生まれるがよい」と言う。しかし愛卿は「その前に一度、夫に逢いたい」と願って、霊界にとどまる。やがて夫が帰還し、愛卿は夫と一夜をともにすることができたので、「明日、宋家へ行って生まれます」と教えて姿を消す。夫がはるばる宋家を訪ねると、男児が生まれていたが、その子は母親のお腹に二十ヵ月もいたのだという。

 

 

【人数】

★1.船に乗れる人数。

『平家女護嶋』(近松門左衛門)「鬼界が島」  鬼界が島に流された俊寛、康頼、成経の赦免状を携えて、使者瀬尾太郎らが船を寄せる。成経は島娘千鳥と夫婦になっており、彼女をも伴おうとする。しかし瀬尾は「船路関所の通行切手は三人のみだ。四人とは書いてない」と言って、千鳥の乗船を許さない。怒った俊寛が瀬尾を殺し、自らが島に残って、康頼、成経、千鳥の三人が乗船できるようにはからう。

★2.宇宙船に乗れる人数。

『月世界の女』(ラング)  男二人(ヘリウスとヴィンデガー)、女(フリーデ)、少年の合計四人が、月世界から宇宙船で地球へ帰ろうとする。酸素タンク損傷のため、三人分の酸素しかない。ヴィンデガーとフリーデは婚約していたので、ヘリウスは「自分が月に残ろう」と考える。ところが、宇宙船を見送ったヘリウスが振り返ると、意外にもそこにフリーデがいた。フリーデは「自分は本当はヘリウスを愛していたのだ」と気づき、彼とともに月に残る決心をしたのだった。

『冷たい方程式』(ゴドウィン)  惑星ウォードンの探検隊が、緑色カラ蚊の媒介する熱病に侵された。一人乗りの宇宙船EDS(緊急発進艇)が血清を積んで、ウォードンへ向かう。ところが、EDSの倉庫内に密航者がいた。それは一人の少女で、ウォードンにいる兄に会いに行こうとしたのだ。見つかったら罰金を払えば済む、と少女は考えていた。しかしEDSの燃料は、飛行士一人分だけである。飛行士は少女を、真空の宇宙空間へ追いやらざるを得なかった。

★3.正しい人の数。

『創世記』第18章  主(しゅ)は、ソドムの町を滅ぼそうと決意する。アブラハムが主に、「あなたは、正しい者を悪い者と一緒に滅ぼされるのですか? もし正しい者が五十人いたら、その五十人のために、町をお赦しにはならないのですか?」と問う。主は「ソドムに正しい者が五十人いるならば、町全部を赦そう」と答える。アブラハムは「では、正しい者が四十五人なら? 四十人なら? 三十人なら? 二十人なら? 十人なら?」と、人数を減らしつつ繰り返し問いかけ、ついに主は、「正しい者が十人いたら滅ぼさない」と言う。

★4.人数を減らしても、仕事はできる。

『しまつの極意』(落語)  商売をする男が、十人いた店員を五人に減らしたが、結構それで間に合う。さらに減らして店員二人にしても、大丈夫だった。思い切って店員をゼロにして、夫婦二人で走り回って働いたら、なんとかなった。妻を離縁して男一人でやっても、間に合った。「それなら、わしもいらんのだ」と言って、男はどこかへ行ってしまった。

★5.人数が増えても、苦労は同じ。

『羅生門』(黒澤明)  雨の中。羅生門の下で、木こり(演ずるのは志村喬)と僧と下人が不可解な殺人事件(*→〔語り手〕1)について語り合っていた時、誰かがそっと赤ん坊を棄てていった。下人はすぐに赤ん坊の衣類を剥(は)ぎ、奪い取ってしまったので、木こりは憤る。木こりは僧に、「わしの所には子供が六人いる。しかし、六人育てるも七人育てるも、同じ苦労だ」と言い、赤ん坊を抱いて帰って行く。

★6.人口増加の起源。

『古事記』上巻  イザナキは、妻イザナミを黄泉国に閉じこめ、離別を宣告して、葦原中国(あしはらのなかつくに=現世)に帰った。イザナミは怒り、「汝の国の人草(ひとくさ=人間)を、一日に千人絞り殺してやる」と言う。イザナキは、「それなら一日に千五百人誕生させよう」と言い返す。これが、一日に千人の人間が死に、千五百人の人間が生まれるようになった起源である。

★7.増加する人口が減少に転じ、一人だけになる。

『最後の地球人』(星新一『ボッコちゃん』)  地球の人口はとめどなく増え続け、百億人になり、二百億人になった。もうこれが人類存続の限界かと思われた時、増加は止まり、減少に転じた。一組の夫婦から、一人しか子供が生まれなくなったのだ。人口は世代ごとに半減し、ついに男女一人ずつになる。彼らは裸で暮らし、人類最後の子供をもうけて、死んでいった。子供は薄暗い保育器の中で成長し、「光あれ」と言うと保育器はこわれ、広い空間があらわれた。これから何をすべきか、子供にはわかっていた。

*膨張する宇宙が収縮に転じ、一点に集まる→〔宇宙〕3の『タウ・ゼロ』(アンダースン)。

★8.人間の数と魂の数。

『生命とは何か』(シュレーディンガー)「エピローグ」  「肉体の数と同じ数だけの霊魂(=意識)がある」と、ヨーロッパ人は考えている。しかしこの仮説は疑わしい。自我意識は、同時に二つ以上感じられることはなく、つねに単一のものとして経験される。肉体が複数存在しても、意識は一つである。ただ一つのものだけが存在し、多数あるように見えるものは、この一つのものの現す異なる姿に他ならない。

*一人の人間に複数の魂が宿る→〔魂の数〕に記事。

★9.鳥の数と枝の数。

『雁風呂』(落語)  秋、常盤の国から日本へ渡る雁たちは、口に木の枝をくわえている。疲れると枝を海に落としてその上で休み、函館海岸の一木松まで来て、枝を捨てる。翌春、雁たちは再び枝をくわえて常盤の国へ帰るが、日本で死んだ雁の数だけ、浜辺に枝が残る。漁師たちは雁を憐れみ、残った枝で施行風呂をたく。それを「雁風呂」という。

 

 

【人数(不吉な)】

★1.十三人は不吉な人数である。

『居酒屋』(ゾラ)7  ジェルヴェーズの誕生日の晩餐に、男女合わせて十四人が集まることとなる。ところがマダム・グージェが欠席して、席についたのは十三人だった。ジェルヴェーズは不吉なものを感じる。一人が「私は帰る」と言い出し、一人が「十四人より十三人の方が、食べ物の分け前がふえていい」と言う。ジェルヴェーズは「都合をつけるわ」と言って歩道へ出る。彼女は、通りかかった老職人ブリュを呼び入れる。

『ユリシーズ』(ジョイス)第2部6「ハーデス」  レオポルド・ブルームは、友人ディグナムの葬儀に参列する。ディグナムの棺が墓地に埋葬される時、ブルームは後ろの方に立ち、会葬者の数を数えて、自分が十三人目になることに気づく。しかしもう一度見ると、雨外套を着た男がいて、彼が十三人目なのだった。ブルームは考える。「十三・・・死の番号・・・あの男はどこから来たのだろう・・・礼拝堂にはいなかった・・・十三がどうとかいうのは馬鹿げた迷信だ」。

★2.八人が不吉だ、という物語もある。

『七騎落』(能)  石橋山合戦に敗れた源頼朝が、船で安房へ落ちのびようとする。主従一行が八騎であるのを、頼朝は「祖父為義、父義朝敗走の折も、八騎だったため不吉だ」と言って、「一人下船せよ」と命ずる。そこで土肥実平の息子遠平が陸に残り、七騎となって船を出す。やがて沖に出た一行は和田義盛の船と出会う。義盛と頼朝は対面するが、義盛は遠平を助け、船底に隠していた。

 

※写真をとる時、三人は不吉である→〔写真と生死〕3の『現代民話考』(松谷みよ子)12「写真の怪 文明開化」第2章の1。

 

 

【人数が合わない】

★1.人数が一人多い。

『黄金伝説』46「聖グレゴリウス」  聖グレゴリウスが十二人の巡礼を食卓に招くが、数えると十三人になっていた。しかし秘書が数えなおすと十二人だった。その時巡礼の一人の顔が老人に変容し、「自分は主の御使いの一人だ」と名のり、「主はあなたを教皇に選んだ」と告げた。

『三宝絵詞』下−30  天台大師(智)が亡くなった後、朝廷は忌日ごとに使者を寺に送り、千人の僧を供養した。その時、斎場で僧の数を数えると、千一人いる。しかし一人一人名前を呼んで記録すると、千人である。供養が始まると僧が一人多いようだったが、供養が終わるとやはり千人である。それで、天台大師が来て僧たちの中に混じっていたことがわかった。

『11人いる!』(萩尾望都)  宇宙大学の受験生十人が、最終選考のため宇宙船に集められる。ところが乗り組んでみると十一人いる。実は、誰だかわからない十一人目は大学のスタッフで、宇宙船にトラブルを起こし、非常事態に受験生たちがどう対処するかを見るのであった。

*十人のはずが十一人になっている→〔福の神〕4aの『ざしき童子(ぼっこ)のはなし』(宮沢賢治)。

★2.人数が一人少ない。

『奇談異聞辞典』(柴田宵曲)「九人橋」  金沢城下の味噌倉町に、九人橋という小橋がある。昼でも夜でも、この橋を十人並んで渡る時には、水に九人の影だけ映り、一人の影は見えない。さまざまに渡り直してみると、映らないのは右端の人だったり、左端の人だったり、中にいる人だったり、そのたびごとに違う。一人ずつ別々に渡る時には、何の変事もない(『北国奇談巡杖記』巻1)。

『鉄腕アトム』(手塚治虫)「キリストの目」  ある夜、七人の覆面の男が教会を訪れ、「実験をするから」と言って広い部屋を借りる。しかし出て行く時には、彼らは六人だった。彼らは殺人光線ロボットの開発実験をしており、教会へ来る時は人間六人とロボット一体であり、帰る時はロボットを分解して持ち去ったのだった。

★3.入場者の数と、使われた切符の数が一致しない。

『切符』(三島由紀夫)  洋服屋の松山仙一郎は、お化け屋敷の招待券を十枚もらったので、カメラ店の本田、薬屋の村越、時計屋の谷とともに、総勢四人で出かける。お化け屋敷でなぜか異様な恐怖にかられた仙一郎は、出口で待っていた妻と話すうちに、時計屋の谷がしばらく前に自殺したことを思い出す。招待券の残りは六枚のはずが、何度数えなおしても七枚あった。

★4.人間の数と花の数が一致しない。

『人影花』(日本の昔話)  盗賊にさらわれた妻を夫が捜し、三年たって盗賊の家を見つけて、妻と再会する。その家には「アスナロー」という花があって、男が来れば男花が、女が来れば女花が、人数分だけ咲く。夜、盗賊が帰って来ると、男花が二つ咲いたので、盗賊は「わしの他にもう一人男がいるな」と言う。妻は「私のお腹に男の子ができたのでしょう」と、ごまかす。山賊は喜び、酒を飲んで眠る。隠れていた夫が、刀で山賊を殺す(鹿児島県大島郡喜界島)。

*人間の数と泡の数→〔泡〕8の『娘奪還』(日本の昔話)。

*腹の中の子を、数のうちに入れる→〔箱の中身〕3の『三国遺事』巻1「紀異」第1「金ユ信」。

*殺した人間の数と、花の数が一致する→〔花〕4の『牡丹』(三島由紀夫)。

★5.死体の数と懸賞金の額が合わない。

『夕陽のガンマン』(レオーネ)  賞金稼ぎのガンマン、モンコ(演ずるのはクリント・イーストウッド)が、盗賊団一味を皆殺しにする。彼は一人一人に懸けられた賞金額を計算しながら、死体を荷車に積んでゆく。すると、もらえるはずの金より五千ドル少ないので、誰かまだ一人生き残って隠れている、とモンコは気づく。生き残りの男が背後からモンコを撃とうとする一瞬前に、モンコは振り返って男を射殺する。

★6.死体の数が多い。

『飢餓海峡』(水上勉)  昭和二十二年(1947)九月二十日午後、青函連絡船層雲丸は函館港を出てまもなく、台風のために転覆した。乗船者八百五十四名のうち、生存者三百二十四名。したがって死者は五百三十名のはずが、収容された死体は二体多かったので、警察は捜査を開始した。それは、北海道内で強盗殺人を犯した三人組が小舟で青森へ逃げる途中、仲間割れで二人が海へ投げ出された、その死体だった→〔過去〕5

 

 

【妊婦】

★1.妊婦の腹を裂く。

『日本書紀』巻16武烈天皇2年(500)9月  武烈天皇は、妊婦の腹を裂いて胎児を見た。

『続氷点』(三浦綾子)「燃える流氷」  戦争中、三井弥吉は北支の部隊にいた。彼は上官から命令されて、中国人妊婦の腹を裂いた。ギャッと叫んだ悲鳴と、ひくひく動く血まみれの胎児を、彼は忘れられなかった。戦争が終わって復員すると、妻恵子は他の男との間に女児を産んでいた(*→〔下宿〕1aの『氷点』)。それを知った三井弥吉は、感謝の思いを抱いた。彼が犯した殺人の罪を償うかのように、妻が一つの命をこの世に産み出してくれたからである。

まないた石の伝説  蒲生氏郷の孫忠知には嗣子がなく、家名断絶の恐れがあった。世継ぎ誕生を願う心は、やがて世間の妊婦への憎しみに変わり、忠知は城下の妊婦を捕らえては、庭前の大石にひきすえ、腹を裂いた。その大石は「まないた石」と呼ばれ、妊婦や胎児の怨みが残って泣き声が聞こえるので、「夜泣き石」とも言われる(愛媛県松山市)。

『蒙求』395「南風擲孕」  晋の恵帝の賈皇后は、名を南風と言った。恵帝は太子時代に南風を娶ったが、彼女は嫉妬深く、太子は恐れた。ある時南風は、妊娠した太子の妾に戟(ほこ)を投げつけ、刃とともに胎児が地に落ちたことがあった。

*生き肝でなく、胎児そのものを必要とするばあいもある→〔生き肝〕5の『椿説弓張月』続篇巻之5第43回・残篇巻之3第63回など。

★2.妊婦の胎内の子が、男児か女児か確かめる。

『源平布引滝』3段目「九郎助住家の場」  平清盛は源氏の胤(たね)をすべて絶やそうとするが、小松殿(重盛)が、「たとえ源氏の胤なりと、女ならば助けよ」と命ずる。葵御前(木曾先生(せんじょう)義賢の妻)の子供が男児か女児か、斎藤別当実盛と瀬尾(せのお)十郎兼氏が検分に来る。しかし、まだ懐胎中だったので、瀬尾は「出産まで待ってはおれぬ。葵御前の腹を裂き、女児だったら助けてやろう」と言う→〔出産〕5

『封神演義』第89回  妊婦が川を渡るのを、妲妃が鹿台から望見して、「あの妊婦の胎内の子は男児で、腹の中で母の背中に顔を向けている」と断言する。紂王が部下に命じて妊婦を捕らえ、腹を裂いてみると、妲妃の言ったとおりであった。

★3.妊婦の腹を裂いて胎児を助け出す、ということもある。

『和漢三才図会』巻第76・大日本国「和泉」  和泉国・西福寺の燈誉(とうよ)上人は、天文(1532〜55)の頃の人である。言い伝えによれば、上人が胎内にあった時、母が死んだので、鎌で腹を裂いて胎児を助け出した。そのため、燈誉上人は「鎌上人」とも呼ばれた。

★4.「妊婦ではない」と言いくるめる。

『聞書抄』(谷崎潤一郎)その5  関白秀次が、若菜売りの孕み女に目をとめ、「あんなに腹が膨れているのは、双生児が入っているのかも知れぬ。腹を断ち割って見てやりたい」と言う。益庵法印が機転を利かせ、芹や薺(なずな)を女の懐へ入れて、「この者は懐妊ではありませぬ。さまざまな若菜を懐へ入れているのです」とたくみにごまかすと、秀次は「それならよしよし」と笑い、事なく済んだ。

★5.ふとった女だと思ったら、妊婦だった。

『クリスマスの夜』(モーパッサン)  肥満漢のアンリは、でっぷりふとった女が大好きだった。クリスマスの前夜、彼は街に出て、ふとった美人を見つけ、自分のアパートへ連れ込む。食事を終え、床入りの時になって、女は苦しみ出す。それは陣痛で、女は産気づいたのだ。出産後、女はすっかり痩せてしまった。女はアンリに惚れ込んだが、痩せた女はアンリの好みではないのだ。 

 

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