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【累積】

★1.類似の出来事・状況などが次々に連なり重なる。

『荘子』「山木篇」第20  荘周が禁苑で遊び、栗林に止まる大きな鵲を弾弓で射ようと狙う。鵲は自分の身の危険に気づかず、葉陰の螳螂を取ろうとする。螳螂もまた背後の危険を悟らず、木陰の蝉を狙う。このさまを見た荘周はぞっとして、弾弓を捨てて逃げ出す。禁苑の番人が怪しんで追い、咎める。

『蘭法医者』(落語)  腹に虫をわかせた患者がいた。蘭法医者が患者に蛙を呑ませて虫を退治すると、患者は両手をついて蛙のごとき姿になった。蛇を呑ませて蛙を退治すると、患者は蛇のようにグニャグニャになった。雉を呑ませて蛇を退治すると、患者は羽ばたきを始める。書生が鳥刺しの格好をして患者の体内に入り、雉を捕らえて出てくる。ところが鳥刺しの竿を体内に忘れたため、患者の身体はつっぱってしまった。

*口から人を吐き出す、吐き出された人がまた別の人を吐き出す→〔入れ子構造〕1aの『続斉諧記』。

*交換を繰り返して、だんだん高い物、あるいは、だんだん安い物を得る→〔交換〕5aの『カター・サリット・サーガラ』「『ブリハット・カター』因縁譚」・挿話2など、→〔交換〕5bの『果報にくるまったハンス』(グリム)など。

★2.吉事と凶事が連なり重なる。

『淮南子』「人間訓」第18  辺境の塞(とりで)近くに住む翁の馬が逃げて、胡の地へ去った。翁は「この災難が福になろう」と言った。数ヵ月後、逃げた馬が胡地の駿馬を連れ帰り、翁の家は良馬に恵まれた。翁は「これが災いの種になろう」と言った。翁の息子が馬を乗り回し、落馬して腿の骨を折った。翁は「これが幸運になろう」と言った。一年後、胡族が攻め入り、大勢戦死したが、翁の息子は跛者ゆえ召集されず、無事であった。

『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)「サイオー馬」  不運を嘆くのび太に、ドラえもんが縄を見せて「幸・不幸はこのようにからみ合っている」と教え、サイオー馬を与える。悪いこと良いことがあった時、この馬に蹴飛ばされればたちまち逆転し、悪いあとには良いこと、良いあとには悪いことが起きる。ドラえもんの言葉どおり、のび太は次々に幸運と災難に見舞われる。

『列子』「説符」第8  ある家で黒牛が白い仔牛を産み、孔子が「これは吉祥だ」と言う。しかし一年ほどして、その家の父親が盲目になる。その後また黒牛が白い仔牛を産み、再び孔子が「吉祥だ」と言い、今度は息子が盲目になる。まもなく戦争が起こり大勢戦死するが、父親も息子も盲目ゆえ召集されず、しかも戦争が終わると眼疾も治ってしまった。

★3.寒さと暑さが連なり重なる。

『最高のぜいたく』(星新一『盗賊会社』)  財産家アール氏の新居に「私」は招かれる。そこは北国、季節は冬で、「私」は凍える。しかしアール氏の邸宅はドームにおおわれ、一歩入ると熱帯同様で、「私」は目まいをおこす。部屋の中は冷房が効いてぞくぞくし、暖炉のそばへすわれば汗が流れる。アール氏は冷たいビールをすすめ、「私」は、「最高のぜいたくとはこのようなものかもしれない」と思う。

 

 

【留守】

★1.留守番する娘のところへ、魔物や魔女が来る。

『瓜姫物語』(御伽草子)  翁・媼に育てられた瓜姫は美しく成長し、国の守護代に嫁入りすることが決まる。ある日、翁・媼が外出し、瓜姫が留守番をする。媼は「誰が来ても戸を開けるな」と言い置くが、あまのさぐめが来て「美しい花の枝を差し上げよう」と言うので、瓜姫は戸を開ける。あまのさぐめは瓜姫をつかまえて遠方の木に縛りつける。そして瓜姫の着物を着て、自分が守護代の嫁になろうとたくらむ。

『白雪姫』(グリム)KHM53  継母(妃)に命をねらわれている白雪姫は、森の七人の小人たちの家に住み、昼間は一人で留守番をし、小人たちのために掃除や炊事をする。「継母に気をつけて、誰も家へ入れるな」と小人は注意するが、白雪姫は、百姓女に変装して訪れた継母にだまされ、毒りんごを食べる。

★2.留守番する山羊の子供たちのところへ、狼が来る。

『狼と七匹の子山羊』(グリム)KHM5  母山羊が森へ食べ物を取りに行く時、留守番をする七匹の子山羊たちに、狼に気をつけるよう言い置く。狼はチョークを食べて声を変え、白い粉を足につけて子山羊たちをだまし、戸を開けさせる。

★3.留守番をする子供が、泥棒を撃退する。

『ホーム・アローン』(コロンバス)  クリスマスのシカゴ。八歳の男児ケビンが一人で留守番する家を、二人組の泥棒がねらう。ケビンは、おもちゃの銃で泥棒たちの股間や額を撃つ、玄関へ上がる階段と地下室へ下りる階段に水を流して凍らせる、ドアノブに電気を通す、尖ったおもちゃを床にばらまく、などのことをして、泥棒たちを痛い目にあわせる。隣家のマーリー老人が除雪用のシャベルで二人組を打ち、ケビンを助ける。警察が来て、二人組は逮捕される。

★4.夫の留守を守る妻。

『鸚鵡七十話』序話  マダナセーナが商用で旅に出る。留守を守る妻プラバーヴァティーを、王子ヴィナヤカンダルパが見初めて求愛する。夕方になって、プラバーヴァティーは王子に逢いに行こうとする。家に飼われている鸚鵡が、「不義が露見しそうになるが、知恵を働かせて窮地を脱する物語」を語り、「このような策略を用いることができるなら、お出かけなさい」と言う。プラバーヴァティーは物語を聞いて、外出を思いとどまる。鸚鵡は七十夜にわたって、知恵で難問を解決する種々の物語を語り聞かせる。

『饗応夫人』(太宰治)  奥さまのご主人は本郷の大学の先生だったが、南方へ召集されたきり、終戦後も消息不明である。留守を守る奥さまの家へ、ご主人の同僚だった笹島先生がしばしばやって来る。何人もの仲間と一緒のこともある。奥さまはいやな顔一つせず、女中の「私」にまで気をつかって、必死に接待する。無理がたたって奥さまは血を吐き、実家へ帰る準備をする。そこへまた笹島先生がやって来る。奥さまは汽車の切符をそっと引き裂き、もてなしの用意をする。 

*夫の留守を守る人妻が、鬼から言い寄られ、豆を打ちつける→〔うちまき〕2の『節分』(狂言)。

*夫の留守を守る人妻が、大勢の男たちから求婚されるが、誰にもなびかない→〔繰り返し〕1の『オデュッセイア』第2巻。

*家族が留守の間の妻の情事→〔人妻〕4の『マディソン郡の橋』(イーストウッド)。

★5.留守にさせる策略。

『赤毛連盟』(ドイル)  燃えるような赤い髪の質屋ウィルスンは、店員スポールディング(その正体は、著名な犯罪者ジョン・クレー)の勧めで、赤毛連盟の一員になった(*→〔髪〕1b)。ウィルスンは毎日連盟事務所へ出かけて、午前十時から午後二時まで仕事をする。これは質屋を留守にさせるための策略で、その間にジョン・クレーと彼の仲間が、質屋の床から銀行の地下金庫まで、トンネルを掘っていた〔*金庫室にはホームズや警官たちがいて、ジョン・クレーを逮捕する〕。

『三人のガリデブ氏』(ドイル)  贋金使いの男が、部屋の床下に精巧な紙幣印刷機を隠していたが、彼は殺されてしまった。老ガリデブ氏が何も知らぬまま、その部屋の新しい住人となる。悪人が老ガリデブ氏に「アメリカ人富豪の遺産が得られる」と嘘を教え(*→〔名前〕10)、手続きのためと称して、老ガリデブ氏を汽車で遠方に行かせる。留守の間に悪人は部屋へ侵入し、印刷機を取り出そうとする〔*ホームズとワトソンが、それを阻止する〕。

『続・社長道中記』(松林宗恵)  女好きの会社社長・三沢(演ずるのは森繁久彌)は、岐阜の旅館に投宿するが、知り合ったばかりの若い女から、「私の部屋へ遊びに来て。杉の間よ」との電話があったので、喜んで出かける。ところが杉の間はまったくの別人の部屋で、「泥棒!」と言われて、三沢はあわてて逃げる。その間に女は三沢の部屋へ入り込み、財布を盗んで行った。

『尾行』(星新一『エヌ氏の遊園地』)  黒眼鏡の男が私立探偵エヌ氏の事務所を訪れ、「ある女を一週間尾行してくれ」と依頼し、調査費を渡す。その女も黒眼鏡の男から、「一週間旅行しなさい」と言われ、旅費をもらっていた。エヌ氏が尾行を終え一週間ぶりに事務所に戻ると、室内が荒らされ、金庫がからになっていた。

*夫を留守にさせる策略→〔仮病〕3の『ヒルデブラントおじい』(グリム)KHM95。

 

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